蛍人
稲荷 壱鬼
第1話 予兆
後悔ばかりだった。。
ヒロトは、古い木造マンションで、窓辺から煙草を吹かす。
熊本市内の某アパートは町中からあまり離れていないのにやけに静かな場所だった。
早朝、寝ぐせだらけの頭を掻き食卓というには乱雑なテーブルには昨晩かった朝食用のパンと、ストレスとともに流し込んだビール缶がたくさん並んでいた。
さて後悔というのは、自らの過去から生まれるもので現在、過去以外にこれから起こるであろう未来にもその影響を及ぼし、明るい未来の後ろ髪を引くものだ。
ヒロトは現在、22歳。熊本県阿蘇郡に、あるのどかな自然があふれる場所で生まれた。それから18歳で福岡県にでて、当時付き合っていた彼女を追ってこの田舎を出た。この物語の伝えたい部分は、福岡から熊本に戻り、今現在にいたる経緯のはなしである。
大分県の県境にあるこの町は人口もほとんどが老人が占める。ここで生まれ育ったわけであるが、ヒロトは、祖父に勝信、祖母の道子と弟の渉、で暮らしていた。米農家を営んでいたこの一家だが、祖父の死別後農業は規模を縮小し、自分らの食い扶持だけの米を栽培していた。
もちろん学生時代は、休みの日には山仕事を手伝わされていたが今では祖父との思い出だ。祖父が亡くなったのは、福岡から地元に帰るきっかけになった当時20歳後半の秋だ。
父、母はいない。幼いころに離婚し、父側の家に来た訳だが高校2年のころに死んだ。
父は配送業の社員だった。とても寡黙で悪いことをすればすぐにこぶしが飛んできた。運転中の事故で死亡。それで彼の父親である人生は幕を下ろしたのだ。
僕は父がずっと怖かった。寝室の隣から父と母の怒号。灰皿を母に投げつけ押し飛ばし母の泣いている姿を扉の隙間から見ていた。
唐突だが、僕は少し普通の人間とは違うらしい。世間では幽霊とかスタンドとかいうみたいだけど、この幼いころから黒いもやもやというべきものを認識だけできる。
いつも自分につかず離れず、姿が見えないときもあるけど認識はできる。別に対話ができるわけでもなく、スタンドのように相手を殴ったり削り取ったりできるわけもないので、この能力はずっと心にしまっておいた。
けれど、それが女性だということだけはわかっているが、ただそれだけの存在だ。
福岡市内バスターミナルからバスで2時間ほど大分県日田市を経由して実家に帰る。日田市からは祖母がむかえにきてくれていたので、代わりに運転して地元まで変える。
その道のりは二時間ほどだが景色がよく、退屈しない。
荷物は少なかった。実家についたころにはすっかり日が暮れていた。
福岡市内の喧騒と違い虫や鳥のさえずりだけが存在するこの場所は,
傷心した心を癒してくれた。
祖母を車から降ろし、車を止め、少ない手荷物を担いで、煙草に火をつけた。
ふと空を見ると、星が瞬き、まるで古い友人に会ったような気持ちになった。
家に入ろうとしたその時、後ろから突風が吹いたような感覚に合った。
『おかえりなさい。』
と黒い女性がささやいた。
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