神芝居

はたねこ

第0話

花は咲きやがて散る。

永遠ではないから美しいのだそうだ。

永遠ではない。悠久ではない。されど種となり再度生み出される。場所を変えて環境を変える。

人間には理解できない習性だろう。風に身を任せ、落ちた場所で生活する。そこに欲はない。されるがまま、ありのままに与えられた環境で成長していくのだ。

風がなく種を吹き飛ばしてくれなければまた同じ場所で一生を繰り返し、風向きが悪ければ過酷な生活が待っている。

しかし、それでも花は移動を好むのだ。全てをリセットさせて、前世と比べることなくただ根付く。



暗闇の中。冷たい雨粒が身体に強く当たっては弾け消える。水を含んだ衣服が鉛のように重くのしかかっていた。

天は微塵も俺らに光を当ててはくれないようだ。

軋む身体に意識を呼び戻され、薄く目を開けた。どうやら今まで俺は気を失っていたらしい。

視界を確保して、それまでに自分が置かれていた状況を思い出した。目線が極端に低い。地面に敷かれた砂利が広い範囲で体重をを支えている。

身体は動かない。麻痺しているのか、意思に反して部位は動かず次第にどこを動かそうとしていたのかさえわからなくなってくる始末だ。

石の礫の隙間を雨と混じった紅が流れていた。感覚はないがおそらく出血もあるのだろう。


ここまでか……。


自分の最後の景色を焼けつけようと唯一、自由の効く眼球を動かす。

目の前には人間が蹲っていた。血で塗られた白い着物に腰まで長く伸びた黒髪の少女だ。


そうだ。俺はこの少女を守りたかったんだ。長い時間を共にした、家族のような存在だったこの少女に明日を見せてあげたかった。

不条理なルール。不可思議なこじつけ。とても納得のいく理由ではない。運が悪かったで片付けられるには想いが大き過ぎる。

ただ守りたかったんだ。


正解も不正解もない。一意にそうであるべきなのだと定められた決まりはこちらの事情など一切汲み取ってはくれない。

一生の終わりくらい彼女には穏やかに済ませてもらいたかったものだ。

まさか最後の最後に一番の後悔をすることになるとは。

再び虚ろ虚ろに消え逝く意識の中、目の前の惨状に手を伸ばした。

掴むことのできない希望。結末はこんなにも儚い。

だけど、はっきりしていることもある。

もしもまた同じ状況に追い込まれたとしても、俺はまた、同様の行動を取るだろう。

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