第十話 火の粉を払って身を守れ

 円花との件に決着がついて、一ヶ月。季節は六月に入り、湿気に悩まされる時期になってきた。

 ―――しかし、今は湿気どころではない。舞華は走る。背後からは無数の気配と声。


「い……」


 今まで、悪魔との対決で音を上げたことはなかった。


「い……」


 そんな舞華でさえ、この状況には叫ばずにいられない。

 第二校舎の廊下をひた走りながら、喉が枯れそうなほどの声を上げた。


「いーーーーーーーーやぁーーーーーーーーーーー!!!」



 事の始まりは、その日の昼に遡る。一限と二限の間、十分間の休みのことだ。

 いつものように芽衣、杏梨と話していた舞華は、急に背筋を走り抜けるような悪寒に襲われた。


「ひっ!?」

「ん、どしたん?」

「姫のおメガネにこのテのコスメは合わんかった?」

「あ、いや」


 誤魔化したものの、今までにない……小動物が背中を駆け抜けたかのような感覚だった。

 今話すことではない、後で優乃達に話そうと心持ちを整理して、舞華は視線を前に戻し……杏梨のスマホに映る、変装とも言わんばかりの厚塗りメイクにたじろいだ。


「……これは、合わないかな」

「素がかわいーからねー」

「姫いずべりーきゅーっ!」


 その一方、皐月と話していた優乃も謎の悪寒に身を震わせていた。表情が変わったことに感づいた皐月が顔を覗き込んでくる。


「歌原さん?」

「あ、いえ……なんでもありません」

「お体の様子が優れないようでしたら、保健室に」

「本当に大丈夫ですよ、心配しないでください」


 気取られないように、視線を舞華と律軌に移す。自分同様、会話の最中であった舞華は同じように取り繕っているのが見えた。

 ……そして、休み時間を利用して仮眠していた律軌は、急に起きたことと膝を机にぶつけたことで少し混乱しており、周囲の生徒に引かれていた。

 程なくして二限が始まる。最初に問いかけたのは、舞華。


『ねぇ、二人共……さっきの』

『授業中です……と言いたいところですが、あれは……』

『意味がわからないわ』

『律軌ちゃん、露骨に不機嫌……』


 優乃は、二人ならこの感覚にも覚えがあるだろうかと予想したもの、その反応から初めてのことだと察する。

 一つだけはっきりしているのは、悪魔の仕業であること。それも今までに感じたことのない特殊なもの。


『何て言うかさ、今までの悪魔とは違うよね。こう、群体? みたいな―――』

「じゃあ姫音さん、ここに入るのは」

「ぇはい!? え、えー……えっくす……」

「yです」

「……あ、あはは……」


 失笑を買いながら、すごすごと座り直す。目先の話に集中した結果、授業をほとんど聞いていなかった。

 嫌なことは忘れよう、そう決めて話を戻そうとする。


『えっと、それで』

『まいちゃん』

『……はい』

『授業中です』

『……はい』


 凄む声を脳内に直接念じられ、舞華は泣く泣くシャーペンを持ち直した。



『これは使い魔の気配だ。僕も感じている』

『使い魔、ねぇ……』


 昼休み。食事の前に優乃にこってりと絞られてから、ロザリオに話を聞く。


『悪魔ほどの力はないにせよ、人間にとっては十分に驚異となり得る存在だ。油断せずに倒さないといけない』

『ねえリオくん、使い魔って群れるものなの?』

『ああ。実体を持った状態で、敵がいなければ個々でも活動する。だけど、今回のように敵だとはっきりしている相手がいるなら、向こうは群れをなしてくるはずだ』


 舞華の感じた「群体のような気配」は間違っていなかった。となれば、今夜の戦闘は多数を相手にすることになる。

 いくら個々が強くないとは言え、相手の数は不明。一体でも取り逃がしてしまえば大変なことになるのは火を見るよりも明らかだ。


『……でもさ』

『なんだい?』

『なんていうか、人にとり憑いてる感じじゃないよね』

『虫や小動物だろうね。対象によっては、儀式が行われている場所を特定するのが困難になる』


 ―――食事中に聞かなきゃよかった。

 虫や小動物と聞いて、舞華は箸を止める。悪魔の儀式に使われる以上、それが自然に生息しているものである可能性は高い。敷地内で小動物が飼われているという話も聞いたことがないため、おそらくは……と考えたくもないことを考えてしまった。


「まいちゃん?」

「あ、いや、ちょっとね」

「しっかり食べないと駄目ですよ」


 思考を見抜いたかのような鋭い視線を優乃が向けてくる。いたたまれなくなり視線を逸らすと、律軌も顔を青くして手を止めていた。

 ここまで来るとむしろ、なぜ優乃が平然としているのかの方が気になってくる。しかし突っ込めば怪我をするのはこっちだろうと思った舞華は、大人しく食事を再開することにした。



 その夜。いつもよりスムーズに目が覚めた舞華は、優乃と律軌に合流して渡り廊下を歩いていた。

 というのも、気配の位置がいまひとつ掴めないのだ。細かい気配がどこかを移動しているのはわかるが、正確に把握できない。


「ど、どうしよ」

「難しいですね」

「ロザリオを待つしかなさそうね」


 気持ちが落ち着かず、その場を歩き回っているうちにロザリオの姿が見える。


「リオくん!」

「えーと……これは」

「敵の居場所がわからないんです。どうにかできませんか?」

「わかった」


 優乃の説明を受けて、ロザリオは目を閉じる。更に耳を澄ませるように手を沿え、深呼吸を始めた。

 しばらく、沈黙が続く。集中が必要な行動であることが見て取れる以上、声を出すことすら憚られるような気がした。

 やがてロザリオは目を開けると、第二校舎を指差して走り始めた。


「こっちだ!」

「ナイス!」


 第二校舎に入り、階段を登る。二階の廊下に出た四人を待ち受けていたのは、異様な光景だった。


「なにこれ……!?」


 黒緑色の小さな人型に、背中の羽根。悪魔としては無個性とも取れる姿のそれが、廊下の至る所にいる。

 床を這い、壁や天井に張り付くようにして、十数を超える悪魔が廊下を埋め尽くしていた。


夢魔むまだ」

「なんて?」

「夢魔。悪魔の下位である使い魔の一種で、インキュバス・インクブスとも呼ばれます」


 ロザリオの言葉を引き継いで優乃が語る。なんとなく聞いたことのある単語に引っ掛かりを覚えた舞華は、反射的に聞き返した。


「インキュバスって聞いたことある、なんだっけ」

「……寝ている女性の元に現れ、悪魔の子を産み付けるとされています」

「へー……え」

「え」


 舞華と律軌は、目の前のインキュバス達と優乃の顔を何度か往復して見る。そして、話し声に気付いたのか複数のインキュバスがこちらへ飛んでくると同時に舞華は走り出した。


「ちょっとおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「舞華、離れるのは危な」

「……行ってしまいましたね……」

「ど、どうするのよ」


 予想外の事態に動揺する律軌に対し、優乃は落ち着いた様子で歌声を上げる。迫り来るインキュバスを波動でせき止め、手にしたメイスで薙ぎ払った。

 据わった目で前方を睨みながら、低い声で言い放つ。


「一匹でも逃すと面倒です。ここで全て潰します」

「頼む。舞華は僕が探してくるよ」

「……」


 ―――私も逃げておけば良かった。

 胃に締め付けられるような痛みを覚えながら、律軌はギターを取り出した。



「いやぁぁぁ来てる来てる来てる来てるぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」


 一方舞華はと言うと、隙を見て変身したはいいものの別の場所からも発生していたインキュバスに追われる羽目となり、剣をがむしゃらに振り回しながら走り回っていた。

 しかし、ただ逃げていただけではない。様々な部屋を覗いていた舞華はあることに気が付く。


 


 今までの悪魔達は、どれも特徴を持った魔法陣から現れていた。しかし今回はそれがなく、どこからインキュバスが発生しているのかがわからない。

 そして、発生源を特定できないことはどう倒せばいいのかという不安に繋がり、比例して舞華の叫び声はどんどん大きく、荒くなっている。


「ぅぬうぉぉぁおぉぉおおああぁあぉおおい!!」


 最早自分でも何を言いたいのかわからない叫び声を上げながら、右へ左へと剣を振る。

 相手の数が多い以上、元を断たなければ増え続ける危険性があることは間違いない。しかしその元が見つからない。

 どうしよう、どうしようと焦りばかりが逸り、舞華は足をもつらせ派手に転んだ。


「あでっ!」


 ―――危な、剣刺さったら死んでた。

 などと考えている暇もなく、すぐ体制を立て直そうとする。が、上体を起こした時には既に二匹のインキュバスが目の前まで迫ってきていた。


「やば……!」

「静寂を!」


 ロザリオの声がしたと同時に、吹雪のような風が舞華の背後から吹き抜け、インキュバスの体を徐々に凍らせていく。

 安堵の息を漏らす間もなく、ロザリオから指示が飛んだ。


「斬るんだ、そう長くは持たない!」

「え、うん!」


 言われるがままに剣を振り抜く。致命傷を負ったインキュバスはそのまま消滅していくが、校舎の中で渦巻くような禍々しい気配は一向に収まる様子を見せない。

 募る不安を押し出すように、舞華はロザリオへ向き直った。


「助かったー、ありがとリオくん」

「舞華、こういう状況で一人になるのは危ない。ここからは僕と一緒に行動しよう」

「うん」


 それから、襲ってくるインキュバスの数が減った。ロザリオ曰く、優乃と律軌の方が脅威であると判断したためそちらを優先しているのだろう、とのこと。

 校舎内を移動しながら、舞華は儀式の痕跡が見つからないことを話す。ロザリオもその考え方には賛同し―――いきなり逃げたことには再度釘を刺されたが―――、どうにか発生源を突き止めることで話が決まった。


「……そういえばリオくん、小動物がどうとか言ってなかったっけ」

「ああ、心当たりがあるのかい?」

「うーん……例えばだけど、ネズミなんかは下水道に住んでることもあるらしいし、あとは蜂が巣を作ってるとか……あと……」

「あと?」

「……ゴキブリとか……」


 心なしか、話しているうちに段々と気持ち悪くなってくる。顔色の悪さを察してか、ロザリオももういいと静止をかけた。

 しかし、本当に虫の巣があるとすれば探すのは容易でなく、ネズミが下水道にいるとなると舞華達で探しにいくことはほぼ不可能に近い。何しろそこら中の魔力が濃く、目視でなければ探せないことに加え、大量発生し続けるインキュバスをどうにかして食い止めなければならないからだ。


「……あ、そうだ」

「何か方法が?」

「リオくんなら、この魔力の中でも正確に相手の位置を嗅ぎ分けられるんだよね?」

「ああ」

「だったら……任せちゃってもいいかな?」


 左手を立て悪いけど、と加える。

 魔族であるロザリオなら、儀式の位置を正確に捉えることができる。それならば、下手に自分達が動くよりも問題解決に適しているはずだ。そう考えての頼みだった。

 当然、伴う危険の大きさは計り知れるものではない。ロザリオも戸惑って視線を泳がせる。


「えーと……ダメ?」

「いや、方法としては間違っていない。けど……僕には儀式を壊すほどの攻撃手段がないんだ。ネズミのような小動物の住処ともなると、舞華についてきてもらうのは難しいし……」

「そっか……えーと、それじゃあ……うーん……」


 ロザリオに武器を持たせるか、見えない場所をどうにかして攻撃するか。攻略はそう簡単ではなく、下位の存在でもやはり悪魔が相手だと実感する。

 少なくとも、自分には遠距離を攻撃する手段に欠ける。となると、やはり律軌に頼るほかないだろう、というのが舞華の見方だ。


『律軌ちゃん!』

『姫音舞華ぁ……!』

『えっなに怖……』


 まずは作戦会議を、と思い律軌に向けて念を飛ばすと、地の底から出したような低い声が返ってくる。思わず率直な感想を念じてしまい、一拍遅れてしまったと思い直した。


『え、えーと……』

『何、用事があるなら早く言いなさい。今こっちはあなたのせいで大変なことになってるのよ』

『あ、うん。えっと、能天使エクスシーアイに聞いて欲しいことがあって』


 先んじて知りたい情報だけを伝え、自分の考えが通じるのかどうかを確認する。もし通じるのであれば、比較的安全な方法でインキュバスを斃すことができる。

 寄ってくるインキュバスを迎撃しながら、返答を待つ。不幸中の幸いと言うべきか、ロザリオに向かってくる個体はいなかったためにそう苦労することなく剣を振るうことができた。

 戦闘中のためか二分ほどの間を置いて、律軌の声が響いてくる。


『可能、だそうよ』

『そっか、それなら一度』

『まいちゃん』

『えっあっはい』

『逃げ出してから一言の連絡もないのはどういうことでしょうか』


 ―――そうだ、元の場所戻ろう。

 諦め切った顔で決意を固めた舞華は、延々と脳内に響く優乃の説教を背景にしてロザリオと共に来た道を引き返した。



「ちゃんと最後まで文句言わずに聞けましたね、えらいえらい」

「……ゆのちゃん、私のこと手が掛かる子供か何かだと思ってない?」

「知らないわ」


 長い説教を聞き続け、戻る頃には晴れやかな笑顔で血まみれのメイスを振るう優乃と、青白い顔で今にも倒れそうな律軌に出迎えられる。

 否、優乃は顔こそ笑顔だが武器の振りに容赦がない。廊下の中に血液の付着は見られないが、メイスは一目見てわかるほどに赤黒く染まっている。姿を変えている天使がいたたまれない。


「えっと、校舎内には儀式の場がないみたいなの。だから、リオくんにその場所を突き止めてもらって」

「……私が狙撃する、って算段ね」

「うん。その……体調悪そうだけど、頼んでもいい?」

「……今度一食おごってもらうわ」


 呪うような視線を向けられ、舞華は思わず目を逸らす。おそらくは優乃の態度が恐ろしかったのだろうと思い見てみるが、優乃は自分が原因だとは思っていないようで、本気で心配の表情を向けていた。

 しかし、作戦が立ったとしても問題がある。迫り来るインキュバスの群れを舞華と優乃だけで処理しなければならないことだ。それに、儀式を警備している個体がいればロザリオが殺される危険性もある。


「まず、この魔力がどこから流れているかを突き止める。しばらくの護衛を頼まれてくれ!」

「がってん承知!」

「一匹も通しません、集中して挑んでください」

「……私は少し休憩したいのだけど」


 律軌は誰にも聞こえないよう呟いたつもりだったが、優乃の笑顔が向けられると同時に押し黙った。

 ロザリオがその場に座ると同時に、全員が別の方向を向く。図書館の方向を舞華、その反対を優乃、そして階段の方面を律軌という形でそれぞれ武器を構える。

 インキュバス達も、ただではやらせないとばかりに押し寄せてくる。幸運にも床や天井をすり抜けるような芸当はできないらしく、自分が見ている方向だけに集中できた。

 決して慌てないように、正確性を第一にして舞華は剣を振る。律軌は弾数の多い短機関銃で弾幕を張り、優乃は仁王立ちで一撃一撃を正確に頭に叩き込んでいる。

 やがて二分が経とうとした時、ロザリオが顔を上げた。


「入口を突き止めた、移動する! 僕の指示に従って動いてくれ、まずは上の階だ!」

「了解!」

「わかりました」

「早くして……!」


 陣形を変え、階段を登っていく。廊下を進んでいくうちに、三人はあることに気がついた。進むほど魔力が濃くなり、それに合わせてインキュバス達が強くなっているのである。

 やがて、一撃では倒せない個体が出始め、攻撃を回避する個体も出てきた。順に詠唱し武器の数を増やして対抗するもの、それでも追いつくので精一杯になる。


「ここだ!」


 声と共に足を止めると、そこには水道。当然そこには、下水へと繋がる排水管があった。穴は小さく、ネズミ一匹がやっと通れるといったところだろう。舞華達の腕が入るのかも怪しい狭さだ。


「舞華、優乃、ここからは二人で頼む。律軌、銃を貸してくれるかい?」

「あなたが撃つの?」

「いや……」


 ロザリオが短機関銃に向けて指で何かを描くと、銃口からロザリオの首筋に向けて緑色の光が伸びる。

 安堵の息をこぼしてから、ロザリオは律軌に銃を返した。


「ありがとう。天使が僕の魔法を受け入れてくれた。これで、君が放った弾は僕を追従するようになる

「なるほど……それで、姫音舞華の言うとおりということね」


 頷いて肯定すると、ロザリオはローブのフードをかぶる。すると、その姿はたちまちミーアキャットとハムスターを足して割ったような不可思議な小動物に変わった。

 あまりの変化に律軌は驚き、舞華達は後ろを振り返ることができないばかりに声を上げる。


「え、なになに!?」

「何かあったんですか!」

「あ、し、支障はないわ、そのまま続けて」

「えーめっちゃ気になるー!」


 律軌はロザリオを手に乗せ水道まで運び、排水管に入っていく様子を見届けると後ろを振り返る。本拠地を襲撃されるとわかったインキュバス達の攻撃は激しく、舞華も優乃も早々に消耗するのが目に見えている。

 早さが命の作戦でありながら待つことしかできない自分に苛立ちを覚え、律軌は唇を噛んだ。


 暗い。当然ながら排水管の中に光源となるものはなく、魔力の反応と匂いを頼りにロザリオは駆ける。四足歩行の動物に変身するのは初めてではない。それでも、普段通りの感覚で動かない体はどこかもどかしかった。

 魔力の根源に近づく。それと同時に、獣臭さが鼻を刺す。少し広い管に出るようで、空気の流れが変わっていた。


「……ここだな」


 首筋に伸びた光の糸をつまみ上げ、管に固定する。ここで足を止めることは、この先に自分よりも大きな体を持つ相手がいることを意味していた。

 ―――どうか、気付かれる前に。


『律軌!』


 叫ぶように念じる。しかし、異物の匂いを嗅ぎつけたのか大きく素早い足音が近づいてきた。こうなれば、息を潜めようが逃げようが意味はない。暗闇を睨み続けるロザリオの目の前に巨躯が現れ―――


「ッ!?」

「さすがだ……!」


 耳をつんざく金属音。やがて音が大きくなると共に、今のロザリオの体躯ほどもある弾丸が迫り、ネズミの体を撃ち抜いた。

 連続した弾丸による金属音が響く中で、何かが砕ける音が聞こえる。儀式の破壊を確信したロザリオは、踵を返して律軌に念じた。


『よくやった、成功だ!』



「あ……」

「っ、これは」

「……終わった、みたいね」


 時を同じくしてインキュバスは消滅し、事の終わりを知った舞華達は腰を抜かすように座り込んだ。

 誰ともなく順番に大きな溜め息が出てしまい、この短い時間でどれだけ疲労したかを噛み締めた。


「……あ、記憶の処理って」

「必要なさそうね、ネズミだもの」

「リオくんは無事なんでしょうか……」


 荒い呼吸を整えながら水道を覗き込む。しばらくして、血を浴びたロザリオが顔を出した。


「みんな、ありが」

「え、かわいー! どしたのそれ、ねぇねぇ!」

「え、ああ、僕のローブは姿を変える魔法が」

「血で汚れていますね、洗いますよ」

「いや、これくらいは」

「あなたちょっと臭うわ、洗ってもらいなさい」

「あの、話を……」


 さっきまでの疲れはどこへやら、小動物と化したロザリオを持ち上げてはしゃぐ舞華達。

 結局、そのまま部屋に連行されたロザリオは舞華の部屋で朝まで過ごすことになった。

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