仇を恩で返す

ワトソン

仇を恩で返す

世の中金なのか?


愛なのか?


何がこの世の中の真意であり、どういう形が幸福なのか。


この問いに答えや正解はなく、千差万別。


人それぞれの答えがある。


俺は愛だ。


心だ。


と答えたいが。


無一文で、今後のご時世を家族や仲間を守り生きていけと言われてもそれは不可能であることを知っている。


人との関係で金を前には、絶対に超えられない利害がそこに存在する。


金は人を変えてしまう。


それは。


狂気なのか?


愛に狂った人間を人は狂気と呼ぶのか。


いや、金に溺れ狂った人間を人は狂気と呼ぶのか。


いずれにしても、多額の富みや名声を築いた人物が必ずしも幸せで、多くの借金を背負い、涙で枕を濡らす日々を過ごしているものが不幸だとも限らない。


そんな訳で、以前書いたエッセイを発表させていただきます。


仇を恩で返すというタイトルのエッセイです。


俺は、2011年に精神病になり、2016年に薬を断薬し、妄想で頭がおかしくなりました。


その時あったことを詳しくエッセイとしてここに発表させていただきます。


~仇を恩で返す~


恩を仇で返すという言葉はあるが。


仇を恩で返すなんて言葉は聞いたことがない。


だが、俺にはわかる。


仇を恩で返す人間の行動理念。


今から9年前。


2011年。


就職一年目の出来ごと。


多分今となっては妄想だろうが、俺の過去の記憶にある確かな、光景。


当時俺は、大好きな作家さんがいた。


その先生の名前は鏡貴也先生。


ここから先は事実と妄想が混在する。


先生は苦労を重ねて作家になった。


地上げで家に閉じ込められ、さまざまな人に嫌がらせを受けたり。


俺は、そんな先生の人生が反映された作品が大好きだった。


先生のファンになり、小説は全て購入した。


そんな事を知っていた、のちに闇の組織となる、俺の最初の就職先の上司が。


上司の藤田という人間が俺にパワハラをしていた。


俺を鬱にするために。


仕事中俺の手を叩いたり、俺が入っているエアーシャワーのドアを蹴り飛ばしたり。


人間は鬱になると思考が止まる。


思考が止まると人間はゾンビみたいになり、使い物にならない人間になる。


俺は、そうして鬱になった。


これも妄想だが、そんな俺が、鬱になることを予見していた鏡先生は。


サラリーマンが嫌いだった。


サラリーマンというか、リーマンのこてこての縦社会が。


資本主義を生き抜く、出世競争の、部下を蹴落とせ、上司にごますれ、といったそんな社会が。


俺を病気にした藤田も、部下を蹴落とすその一人である。


そんな藤田に。


あるモノを渡したくて。


藤田の前に、鏡先生が現われた。


組織が俺をモニタリングするために。


先生のファンである俺を苦しめた、上司にあるものを渡すために。


ある日、俺がいつものように椅子に座り、オフィス室で作業していると。


鏡先生が、オフィス室に入ってきた。


先生は身長180以上の長身。


スーツ姿。


俺は、その姿をみて。


え!?


と思った。


この人。


もしかして。


鏡先生!?


だが、声はかけれなかった。


先生である確信がもてなかったから。


先生は、小さな封筒をもっていて。


なにか入ってそうなその封筒を持って。


俺の目の前に座る、パワハラ上司の藤田のところまで近づいてきた。


鏡先生は藤田に言う。


『よう! てめぇら。これやるよ』


それだけ、言って、鏡先生は持っていた小さな封筒を渡した。


それは。


その中身は。


金だった。


札束。


それも、諭吉100人分。


100万円が入っていた。


その100万円の札束を、藤田は鏡先生から受け取った。


鏡先生は続けて、言う。


『お前ら、この紙が欲しいんだろ。なぁ、このしょうもない、紙クズが欲しいんだろ。これでケツでも拭いてろ』


そんなことを言う。


だが、それを受け取った上司の藤田は笑顔で言う。


『意味がわからない、理解出来ない』


やつらリーマンにとっては、この紙クズが、物凄く大切で、何を言われても、この札束をいただけるとなると、嬉しくて仕方ない。


藤田の意味がわからない、理解出来ないという言葉。


鏡先生などの作家にとっては、最高の賛辞の快感の言葉である。


お前たちにはわからない。


生きている世界が違う。


金に対する考え方。


とらえ方。


概念そのもの。


もっとも金を欲しがっている、汚く嫌いなやつに、あえて金を渡したくなる心理。


俺がこの心理を理解するのは。


2016年の夏のことだった。


俺は、それまで、さまざま金で苦労した。


ニコ生のリスナー及び、配信者に、振り込め詐欺で金を騙し取られたり。


友達にお金を貸して、何年もかかって返済してくれたと思ったら、結局友達との縁が切れてしまったり。


金が人を狂わせる。


金が人を駄目にする。


こんなものが世の中になければ。


こんな紙クズを世の中から消したい。


財布に1万円入っているだけで、つんざくようなストレスを感じる。


許せない。


こんなもの。


シュレッダーにかけてやる。


おれは決心した。


ある日。


俺の2階の部屋で。


家にあったシュレッダーの前に俺はいた。


正座しながら。


1000円札1枚だけだが。


それをシュレッダーにかけるか。


かけないか。


俺は、迷っていた。


すると鏡先生の声が聞こえた。


『そんなもの、早いところシュレッダーにかけて、こっちの世界にくるんだ』


俺の背中を推した。


これをシュレッダーにかければ。


おそらく世界が変わるだろう。


世の中の見え方。


考え方が変わるだろう。


ためらいつつも。


ついに決心して、1000円札をシュレッダーにかけた。


ばりばりばりという音ともに、1000円札は、紙クズとなった。


もともとこんなもの紙クズだ。


これでいいんだ。


それをシュレッダーをかけた瞬間の俺の背骨が。


脊髄が。


体の下から上へとむかい、ごぼごぼっと、泡が上に向かっていくような感覚があった。


これは。


きっと脊髄の髄が変わったんだ。


俺には、もう金の概念がない。


それはすなわち。


俺の脳内で鏡先生は言う。


『スーパースターになった瞬間』


と。


俺はスーパースターになった。


無敵になった。


金の概念がないということは。


金の欲望に振り回されない、本当の本質的に人や物事を考えられる人間になったということだ。


人に優しくすること。


人を助けること。


人のためになること。


そんなのはもう金のためじゃない。


人のためなんだ。


自分の心で、人の心をしっかり考えてあげれる人間になったんだ。


それからのこと、俺は、金を捨てるような生活が始まった。


ある日のパチ屋でも。


大当たり中のスロットの台や、パチンコの台。


何度も捨てた。


そして、仇を恩という凶器で返す象徴となった事件が、パチ屋でおきた。


ある日の事。


今日もどのように金を捨ててやろうかと。


お世話になっていたパチ屋の前に車で待機していた。


朝の開店前の時間。


誰もいない駐車場。


場所取りの物置き行為は基本NGであったが、誰もいなかったため、持参していたイスをお店の玄関に置き、だれか一人でも、来たら、車から降りて外で座ろうと思って待機していた。


携帯をいじって待っていると。


誰か一人来たことに気づかず。


俺の車の窓から、その一人がひょっこり顔を覗かせた。


そいつは、白髪に黒のサングラスに、全身真っ黒な服。


よく見かける爺だ。


だが、そいつが、かなり怒っている様子で。


滑舌がそいつは物凄く悪く何をいっているのかわからなかったが。


俺は、必死に自分の言い分を説明した。


だが。


そいつは、全然俺の話しを聞こうとしない。


はっ?はっ?はっ?


というだけで。


めちゃめちゃ心底頭にきた。


本当に腹がたった。


手をだしてもおかしくないくらい俺は怒っていた。


確かに、俺も悪いが。


人の話しを全く聞こうとしない、小馬鹿にしたその態度がどうしても許せなかった。


そして、開店時間を迎え。


怒りの感情を抑えられぬまま、店内へと入った。


北斗の拳の新台に俺は座った。


怒りつつもその一回転。


その一回転でなんと大当たり。


ところがビッグボーナスではなく、レギュラーボーナス。


こんなタイミングのいいレギュラーボーナスがあるか。


俺を小馬鹿にしたようなレギュラーボーナス。


さっきの黒服くそじじいの態度。


ゆるせない。


ゆるせない。


ゆるせない。


俺は、車につんであった紙を用意した。


あいつは、話しても話しが通じないクソ野郎だ。


だから、筆談すればきっとわかるだろう。


そこには、こう書いた。


さっきは僕も確かに悪かったです。でも、人の話しをちゃんと聞いたらどうですか?


と、書いた。


そして。


その黒服の爺がパチンコ台で打ってる近くまでいき。


俺はその紙をその爺に渡した。


だが、じじいは、その紙を振り払い、くしゃくしゃにして、ゴミ箱に捨てた。


当時俺のルールの中で、持ち込んだものを、その店に捨ててはならないという流儀があった。


だから、おれはゴミ箱をあさってその紙を回収した。


許せない。


腹がたつ。


どうにか、こいつに、ひと泡ふかせてやりたい。


数日後。


俺は、その日、とちくるって、パチ屋の店内のパンを全て購入。


そして、あまった6000円分の景品カード。


このカードを。


よし。


やつに渡そう。


一番嫌いな。


一番憎いやつに。


この大嫌いな金に変わるカードを渡そう。


そいつは今日もいた。


黒服の爺。


いつものように、いつものぱちんこ台を打っていた。


おれは、声をかけた。


『このまえは、本当にすいませんでした。これ、お詫びに景品カードあなたにあげます』


そういって、その6000円分の景品カードをそいつに渡した。


黒服のじじいは困惑ながらもそのカードを受け取った。


そのカードが正直その後どうなったか、なんてどうでもいい。


俺は、もうそのとき最高の気分だった。


やつにひと泡吹かせたくらいの最高の気分。


仇を与えてきた人間に対して、さらなる恩で、そいつに恩という凶器で仇を与える。


これ以上にない、最高の愉悦。


嫌いなやつに、嫌いなものを渡し、そいつを喜ばし、俺も喜ぶ。


これぞウィンウィン。


過去にも、刺青の入った巨人ファンに振り込め詐欺で騙された。


友達にお金をかして、縁を切られてしまった。


俺の情緒は、悲しい、ムカつく、嬉しい、そういった、心の変化がしっかりと感じとれるようになっていた。


病気が発症したころの自分をふと思い出した。


そこには無の感覚。


嬉しいも。


ムカつくも。


悲しいも。


何もない、無の感覚。


心を失い、鬱になった人間はただの屍だ。


でも。


さまざまな人との出会い。


さまざまな人のご厚意、裏切り、計らい、関わり。


その中で、俺の止まっていたこころの感覚は動きだし。


止まっていた心の針もしっかりと動きだした。


これが生きるということだ。


この心の感情には、きちんと裏表がある。


それらを思い出させてくれた、愛すべき好きな人。


仲のいい友達。


犯罪者の詐欺師。


この黒服の爺。


そういった全ての人達に感謝なんだと。


俺は、振り込め詐欺の人にも。


最後のラインでこう言った。


僕を騙してくれて、ありがとう、あなたみたいな卑怯な人がこの世にいることも知ることが出来たし、僕の止まっていた心がきちんと動きだすようになったので、感謝してもしきれないです、と。


僕に、仇を与えてきた全ての人に。


もっともっと多額の金を渡して。


感謝をしたいです。


そして、それを示してくれた鏡先生。


やっぱり先生はすごいよ。


うん。


以上 ~仇を恩で返す~ おしまい。


あとがき


このエッセイはお金に対する結論ではなく、そのときのことを詳しく細かく書いただけなので、決してお金を粗末にしたり、シュレッダーをかけることが正しいとは、今は思っていませんし、それを肯定することはありません。


ただあの頃の感覚は、そういう思いだったということで書かせていただきました。こういう経験をする人は稀だと思うので、興味を持って読んでくれた方、ありがとうございました。

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