リポビタンDとアロエの缶の物語

ワトソン

リポビタンDとアロエの缶の物語

俺の中の明石屋さんまは語る。


俺は、大好きだったコヒレの彼女に。


渡したかったモノがある。


それは、飲み終えたアロエの空き缶。


幾千もの人達が、妖艶なコヒレの彼女に。


明石屋さんまのような、陽気で人気の高い彼が。


その価値の見い出せないアロエの空き缶を。


渡すという感動の伝説が。


何度も何度も繰り返されてる気がする。


これは何度目だろうか。


何度目の人生だろうか。


彼女が死ぬ間際、泣きながらその思い出の空き缶を。


明石屋さんまである僕は彼女に渡したり、渡せなかったり。


その都度感動の形は違う。


今回は渡そう。


この思い出の缶を。


アロエの缶は我々パチスロスロッターの貴重な美味しい飲み物である。


その自動販売機に売っている飲み物をパチンコ屋で飲み。


コヒレからまた、ジュースを頼む。


次第に、アロエの缶も。


コヒレとの思い出の一部になっていく。


接点があまりないように見えるが。


そんなことなどどうでもいい。


あるっておもってたんだから。


それでええやん。


なので、アロエの缶は俺の脳内の中で勝手に思い出の品物なのである。


その思い出を。


俺の中で消化したい。


消化するためには。


まず。


行動だ!


俺は君を助けたい。


俺は一人ぼっちの君を助けたい。


いきなりどうしたワトソン。


明石屋さんまは、クラスの目立たない少年を弄り倒し、その子の居場所を作った。


俺もそうだ。


俺もあのとき。


俺もクラスのあの子を弄り倒し、その子の居場所を作った。


その子はいつも一人で。


いつも悲しくて。


絶対に君を救うと俺が言って。


そうテレビで、俺もさんまも宣言しながら、具体的な行動はなにもしない。


宣言するだけ。


でも、なんだかんだ結局その子の居場所が出来てしまっていて。


そんなことも、もう地元のパチ屋の店員たちはみんな分かっている。


もう支離滅裂なこの記事に。


なんの価値があるか分からないが。


続けて書こう。


俺の妄想ってそんなもんだから。


俺は、大切なモノを隠そうと思った。


組織に大切な情報を流さないように、隠そうと思った。


それは。


大切な実物のモノと、俺の心の情報。


組織が欲しがっているものは後者。


後者とは何か。


それは。


俺が誰とヤりたいのか。


一体誰とヤリたいのか?


好きな女優や、AV女優や、アイドル。女の子。


それらの情報を組織は知りたがっている。


やくみつるも知りたがっている。


それらの情報を組織ややくみつるらに知られること。


それは即ち極刑、死を意味する


それくらいの重罪に値する。


俺は、一番大切なモノに、その情報を書き込み、隠し捨てようと考えた。


一番大切なモノ。


まぁ一番かどうかはわからないが。


初めて買ったインディーズアルバムの、ジャケットの背表紙の紙。


その裏面に。


俺が抱きたいと思っている、著名人らの名前をランキング形式書きこんだ。


でも、もし、この情報が見つかったら。


俺は、死ぬだろう。


だから。


絶対にわからぬよう、ミミズのはったような、文字とは言い難い文字で。


俺は、瑠川リナや有村かすみやしょこたんとこっそり書いていた気がする。


しかし、これだけでは、危険に対する意識がもしかしたら足りないかもしれない。


もっと知られたくない大切な情報を書き込み、絶対にそれを隠してやろうと。


俺は決心し、クレジットカードのカード番号とセキュリティコードをその背表紙に書きこんだ。


これで、もし、この背表紙が見つかったら。


組織の奴らは、そのカード番号を悪用するだろう。


そうなったらもうジエンドだ。


だから必死に隠す必要がある。


絶対にこの情報を守るために。


そのために、拾ってきたんだろ。


このリポビタンD。


俺が、背番号51末永真史スカウトと戦い、バッティングセンターから家まで歩いたその日。


その道中で拾ったリポビタンD。


この時のために、俺は、コイツを拾ったんだ。


そうに違いない。


俺は、根拠もなくそう断定した。


俺の行動はもう筒抜けである。


組織の奴らにもう見透かされている。


それでも俺は負けない。


俺は、この情報を隠すため。


情報が記された背表紙を、空き瓶のリポビタンDのなかに入れ、蓋をしめた。


こいつを今から捨てに行く。


この犯行が組織にばれないように。


指輪を捨てに行く旅、指輪物語、ならぬ。


リポビタンDを捨てに行く旅、リポビタン物語が始まろうとした。


全ての準備を整え、車に乗り込んだ。


この情報を捨てる場所。


絶対に奴らに悟られてはならない。


外はもう真っ暗。


夜である。


車を走らせた。


山へ行こう。


なるべく、遠い遠い山奥へ。


車を走らせる。


いつもの三本道。


左折も右折も街へと繋がる道路。


直進すれば、人気の少ない山へと向かう道路。


よし、直進しよう。


その後も、俺はずっと直進し続けた。


途中さまざまなことを思い出した。


妄想にすぎないが。


俺がいまとっている行動。


パチ屋の店員たちはみんなもうわかっている。


どうせ、リポビタンD捨てに行くんでしょ。


そんなことは、もうみんなわかっていた。


それでも、おれは負けないぞとばかりに、車を走らせる。


走らせること15分。


道路標識のところに俺は車をとめた。


もうどんな道路標識だったかは覚えていない。


よし。


ここに。


例の物を埋めよう。


俺の乗っているダイハツの車は既に盗聴されている。


組織の犯行で。


だから、俺はあえて大きな声で、言う。


よし。


この標識のしたの土に埋めよう。


俺はあらかじめ車に積んであった、銀色のショベルで簡単に穴を掘り。


あるものを埋めた。


そう。


それは。


マッチ棒。


組織の奴らを、盗聴でリポビタンDを埋めたと勘違いさせといて、まさかのマッチ棒。


しかし。


これもパチ屋の店員には、お見通しであった。


なぜなら。


歴史は繰り返されるから。


必ず。繰り返される。


何度も。


何度でも。


過去にも俺はここにこのマッチ棒を埋めた記憶がある。


そういうデジャブを感じる。


何度もある気がする。


最終的に、このリポビタンDどうしたのか?


どうしたいのか?


その答えを思い出せ。


そうだ。


また車に乗り込み、少し車を走らせる。


どこに捨てたか?という自分の認識をもったらもう駄目だ。


俺は、過去にこの名前のわからない目の前の橋から、川の向こうへ思いっきりみつからないだろうところへ投げ込んだはずだ。


迷わず、ためらわず、エッチしたい女の子ランキングと、クレジットカードの番号が書いてある、インディーズのジャケット背表紙の入ったリポビタンDを俺は、川へと投げ込んだ。


リポビタンDは、川の向こうの闇の中へと消えていった。


あのリポビタンDをわざわざ組織は探すだろうか?


間違いなく探すだろう。


でも、もうきっと見つからない。


みつからないはずだ。


というかみつからないで欲しい。


まず探す気にならないでほしい。


もう俺がどんな思いで、どんな願いや、どんな希望を持っても、その情報が今後どうなるか。


考えるだけ無駄である。


というかこの行動自体無駄な行動なのだが。


俺は、そんなこと考え家に帰った。


家に帰って、暗い、外の玄関先で。


もう次に自分がやるべきことはわかっていた。


そう。


あの思い出のアロエの缶。


幾人もの人達がこのアロエの缶に思いを託し、販売され続けるこの缶。


缶のゴミ。


俺は、迷わず。


そのアロエの缶を、もっていた新富士バーナーであぶった。


理由こうだ。


彼女が。


コヒレの彼女が。


最後に死ぬその間際。


俺は、このアロエの缶を大事に大切にとっていたんだよ、と。


それをおばあちゃんになってしまい今にも死を迎えるコヒレの彼女に。


その思いを伝えて、アロエの缶を渡したいと思っていた。


そのとき。


アロエの空き缶が、綺麗な缶のままだったら、なんだか、年季がないというか、味がないというか。


わびさびの美学というか。


すこし黒こげで汚くなった感じの缶のほうが、その缶が一生懸命永い年月をへて、生きてきたという感じがでるではないか。


だから俺はあぶった。


新富士バーナーで炙った。


何度目だろう。


この作業をするのは。


アロエの缶であるのが、少しわかるくらいの、黄緑の色模様を残し、その他はやはり黒く焦げてしまった缶。


その缶を見て。


明石屋さんま氏は言う。


ワトソン。


オマエもそれをやっていたか。


明石屋さんまもそれを何度も何度もやっているそうだ。


さんまもっと酷く焦がして炙ったらしい。


もうアロエの缶であることがわからないくらい、もう真っ黒に焼き。


それは、もう既に缶ではない。


ただの燃えた炭。


燃えカスである。


俺は、その燃えカスを見て。


心の中で爆笑する。


さんまは俺に言う。


オマエは今大きく笑ったが、その笑いが大きければ大きいほど、彼女が死ぬ間際感動的な別れになる。


いろんなことを考えてみろ。


例えば、そのオマエが焼いた空き缶。


お前も、コヒレの彼女が死ぬ間際にそれを渡すだろう。


きっと、彼女もオマエもそのとき泣いてるはずやで。と。


そして、おれが、この燃えたアロエの空き缶。


この燃えたアロエの空き缶を彼女が死ぬ間際に渡すとき。


それを想像するんやで。


『コヒレの萌ちゃん。僕達としとったね。ほら見てごらん。これが、あのときの僕達の思い出のアロエの空き缶。僕達どうよう永い年月をへて、こんなになっちゃったよ』


さんまは死ぬ間際の婆さんに、黒こげのその何かを見せ、大粒の涙を流す。


ただの燃えカスのゴミをもったまま、二人は涙を流す。


人間の生命力。


アロエの缶の生命力。


永い年月をへて、その命のともしびを消そうとしている。


婆さんと燃えカス。


これほどまでに、悲しく、歪な、感動的な思い出があっただろうか。


俺は、思った。


それは、素晴らしく、感動がやばいですね。さんまさん。


俺は泣きながら、燃えたアロエの空き缶を見つめていた。


そんな俺をきちがいになったんじゃないかと心配し、父が見つめていた。


だが、俺のなかの明石屋さんまはさらにいう。


もっと悲しいパターンがある。


彼女の死に際に間に合わなくて。


このアロエの缶が家のどこかにあるのかわからず、探し続けて。


その結果、彼女にこの缶を渡せなかった場合。


こんな悲しいことはない。


大切な思い出。


大切な記憶。


彼女とさんまと、ともにあったこのアロエの缶。


それを。


渡せなかったなんて……


こんな悲しいことはあるか。


嗚咽を漏らし泣くさんまがさらに続ける。


もっと悲しいパターンがある。


そもそも。


このアロエの缶がなかったとしたら。


こんな悲しいことはない。


こんなことは許容できない。


許せるはずがない。


もしなかったなんて考えられないだろう。


だから。


ワトソンよ。


そのアロエの缶を大事するんだぞ。


脳内の明石屋さんまは俺に伝えた。


そして。


俺はバーナーで炙ったそのアロエの空き缶を。


大切に保管しようと思った。


新聞紙でくるみ。


彼女同様、俺も最後を迎えるであろう、ときのために。


ダイソーで購入した、細長いロープでぐるぐる巻きにくるみ。


そして、そのアロエの缶を押し入れにしまった。


それから数カ月後。


入院から、退院後、俺はそのロープを探した。


しかし、そのロープがない。


探すがどこにもない。


どうやら、お父さんが、ロープはいろいろと危ないという理由で、そのロープ処分してしまった。


ロープなんて正直どうでもよかった。


大切なのは、新聞紙にくるまった、あのアロエの缶。


あれだけが大事。


おれは、お父さんに尋ねた。


声を荒げて尋ねた。


『お父さん、缶は? 新聞紙にくるまったアロエの空き缶は? あれはどこにやったの?』


お父さんは、あまり記憶がないという感じであったが、


『そんなのあったのか? 多分捨てたと思う』


このとき、さんまが燃えカスを持ちながら号泣したくらい、俺もその事実に一晩中泣いていた。

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