「RINEやってる?」職人と、メッセージアプリをやっていない女の子

「RINEやってる?」職人と、メッセージアプリをやっていない女の子 1/1

 俺の名は照屋雷夢てるや らいむ、何処にでもいる「RINEやってる?」職人さ。

 道行く人々からメッセージアプリのアカウントを収集し、組織に売り払うのが俺の生業だ。

 今日も獲物を求めて大都会東京を徘徊しているが……ムム、気弱そうな女子高生が単独行動を取っているぜ、これはチャンス。


「そこのお嬢さん、今忙しい? ちょっといいですか?」

「え……駄目ですけど……」


 秒で断られたが問題ない。

 反応した時点でこっちの勝ちさ。


「何処住み? てかRINEやってる?」


 畳み掛けるように問う。

 会話が成立した時点で、相手は俺を単なる背景ではなく、生きた人間として認識している。

 同じ人間に問われたことに答えなければ、罪悪感が刺激されるって寸法さ。


「やってないですけど……」


 やってないなら仕方ないぜ……。

 目を見ればわかる、これはその場凌ぎの嘘じゃない。本当にRINEやってない人間の目だ。

 だが、此処で諦める俺じゃあない。


「へぇ、それじゃLIMEはやってる?」


 RINEをやってないならLIME。

 これが職人芸ってやつさ。


「それもやってないです……」


 なんと、LIMEもやってないとはな。

 大抵の女子高生はRINEを、そうでなくともLIMEはやってるはずなんだが。

 だがな、俺は職人。まだまだこんなもんじゃないぜ。


「そっかぁ、ならLIENはやってる?」

「それもやってないです……」

「んー、じゃLYNEは? やってる?」

「やってないですね……」


 くっ、こいつは思わぬ強敵だぜ。

 まさかLIENやLYNEすらやってない女子高生がいるとはな。

 面白くなってきやがった……!


「LAINはやってる?」

「やってないです……」

「RAINは?」

「やってません……」

「LENEならやってない?」

「やってない……」

「LONE、LUNE、LONE辺りはどう?」

「聞いたこともないです……」

「LINFはしてるっしょ?」

「してないです……」

「LENIならやってたり?」

「しないです……」

「NILEは、やって?」

「ないです……」


 なかなか手強いぜ。

 これは俺も本気を出す必要がありそうだな!


「SENは?」

「やってません……」

「BOUは?」

「やってません……」

「HIMO!」

「やってません……」

「NAWA!」

「やってません……」

「TUNA!」

「やってません……」

「ROPE!」

「やってません……」


 なんてこった……まさかこいつ、メッセージアプリをやっていないとでも言うのか!?

 いや、それこそまさかだ。現代の女子高生がメッセージアプリをやってないなんて、そんなこと有り得ねえ!!


「あの……もういいですか……?」


 女子高生は面倒臭そうに問い返してくる。

 くっ、わざわざ確認を取るとは、何処までも律儀なやつだ……!


「……仕方ねえ……こうなったら最後の奥の手を使うしかない、か……」

「はい……?」


 無意識に漏れていた言葉に、怪訝な声が返ってくる。

 俺は覚悟を決めて……「RINEやってる?」職人としてのプライドを賭けて、尋ねた。


「てか……Sukaipeやってる?」

「あ、はい、やってます……」


 そうして、俺は最後の賭けに勝ったのさ。

 やはりSukaipe。Sukaipeは全てを解決する。

 今は効かないが、いずれ癌にも効くようになる。


「おっ、じゃあID教えてよー」

「嫌です……」


 IDは得られなかったが、最後に俺は確かな満足感を手に入れた。

 これがあるから「RINEやってる?」職人はやめられない。

 俺は十年後も二十年後も五十年後も……俺以外の誰一人として、RINEをやるやつがいなくなったって。

 生涯「RINEやってる?」職人を続けるって心に決めたのさ。


<fine>

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