短篇小説集「ョゴルィンッミペゥ」
役立たずの無能と言われパーティ追放された魔剣士は真の実力を開放したけど「できるなら最初からやれ」と元メンバーの遺族に恨まれ訴えられ賠償金が払えず奴隷落ちする。今更もう遅い、死んだあの子は帰って来ない。
役立たずの無能と言われパーティ追放された魔剣士は真の実力を開放したけど「できるなら最初からやれ」と元メンバーの遺族に恨まれ訴えられ賠償金が払えず奴隷落ちする。今更もう遅い、死んだあの子は帰って来ない。
役立たずの無能と言われパーティ追放された魔剣士は真の実力を開放したけど「できるなら最初からやれ」と元メンバーの遺族に恨まれ訴えられ賠償金が払えず奴隷落ちする。今更もう遅い、死んだあの子は帰って来ない。
そんな実在の魔剣士奴隷の顛末を聞き。
都立冒険者育成学校初等科の児童らは、哀れみの顔、憤った顔、馬鹿にした顔、眠たげな顔など、思い思いの表情で、壇上の特別講師を見上げていた。
「えー、こうして、魔剣士チータムは再び全てを失い、以降死ぬまで奈落ダンジョンの最前線で、露払いとして使い潰されたわけです」
特別講師として母校に呼ばれた元冒険者、今は冒険者ギルドの職員となった魔法士ドヌンゴ。
初等科の講師と聞いた時は、
もちろん話を聞かずに隠れて漫画を描いたり、練り消しを作ったり、ノートの切れ端に書いた手紙を回したりしている児童もいるが、過半数はドヌンゴの方を見て、その話を聞いている。
中等科以上ならともかく、初等科の児童は概ね親の意思や思考誘導で学校を選んだわけなので、冒険者という仕事に対する意識はそれほど高くない。とはいえ、3年も通えば自分の進路としてしっかり意識するようにもなるのだろう。
思い返せば、同級生やドヌンゴ自身も、この頃には「自分は将来冒険者になるんだ」と、自然に考えていた気がする。
ここまでを、ドヌンゴは魔法士のパッシブスキル【高速思考】を駆使して0.2秒で考えた。
クラス担任から預かった出席簿にちらりと目を落とす。
「このお話の教訓は何でしょう? 今日は16日なので、はい、出席番号16番のマドッポくん」
「命がかかっている冒険で手を抜くな、だと思います!」
「そうですね、それも非常に大事ですね」
自分の命に危険がなくとも、仲間の命がかかっている。
命がかかった場で気分を優先して手を抜く。それも恒常的に。
それで実際に仲間が死んだのだから、遺族の恨みも買うだろう。
「他には? その後ろのミルヘナさん」
「目立つ場所で調子に乗るな? ですか?」
「確かに、そこに気を付ければ恨みは買わずに済んだかもしれません。しかし実力のある冒険者は目立つのも仕事の内ですから」
「じゃあ、目立つなら最初から目立て!」
「そうですね。方針転向のタイミングが悪かったのも大きいですね」
チータムは元パーティに所属していた頃から、リーダーとの関係が悪かった。
元パーティのリーダーは横暴で自己中心的であり、チータムは陰険で自己愛が強すぎた。
傍から見ればどちらも関わり合いになりたい気質ではなかったが、互いに自身の性格に関する自己評価は妙に高い。
2人と同じパーティにいたドヌンゴは、調整役としていつも胃を痛めており、身体を壊して冒険者を引退したのだ。
「もう1人聞いてみましょう。ムヨリさん」
「はい。いざという時のため、貯蓄はしておくべき、です」
「良い所に気付きましたね。個人資産やパーティ資産で現金をプールとしておけば、流石に奴隷落ちまではなかったでしょうから」
何だかんだで未必の故意による殺人が認められ、冒険者パーティ内の殺人なので準外患罪が加算、相手が一応貴族の末席だったので不敬罪と弑逆罪も乗せられ、ついでに依頼中の話だったのでギルド及び依頼人からの損害賠償の追徴。過失による依頼失敗ではなく、怠慢による職務不履行だったと判明したことで、その差額を1人で支払うことになった。
冒険者ランク的には支払い能力もギリギリあると判断されていたが、考え無しのチータムに貯金などはない。装備は買い叩かれ、借金も断られ、結果としての奴隷落ちだ。
「他にも幾つか学ぶべき点はあると思いますが、今回一番言いたいことは1つ。パーティを組む時は、人柄で相手を選ぶ。これです」
これはそんなメンバーとパーティを組んでいた、ドヌンゴ自身の自戒でもあったが。
「先生、質問よろしいでしょうか」
礼儀正しく挙手をするのは、魔法職らしく髪を伸ばした眼鏡の少年だ。
「えー、はい、ヨーロルくん。どうぞ」
「はい。先程、パーティは人柄で選ぶとおっしゃいましたが、あくまで戦闘をするメンバーなのですから、人柄より能力や構成で選ぶべきでは?」
「いい質問ですね。しかし、答えは明確に否です。能力は成長しますし、構成が偏ればそれに向いた依頼を受ければいい。ですが、大人になると簡単には人柄も成長しませんし、どんな依頼を受けても同じメンバーが付いてきます」
少し言葉に毒が漏れかけたことに気付き、ドヌンゴは軽く息を吸って、吐く。
「遠征で何日も寝食を共にする仲間が、頻繁に仲間を怒鳴る。長時間、内容のない説教をする。それを別の仲間がヘラヘラと聞き流し、陰で中傷する。2人組で夜番をしている時は延々と愚痴を言い続ける。恐らく陰で自分の悪口も言っている。別の仲間は空気を軽くするつもりで双方に追従し、意図せず対立を助長する。それを窘めても理解しない。逆ギレする。そんな環境で、実力を発揮することは難しいですし、体調も悪くするかもしれません」
漏れた。
人格的に信頼できるメンバーもいたのだが、戦闘中に死んだ。
彼の遺族が起こした裁判の際には、ドヌンゴも証人として法廷に立った。
「あ、ありがとうございます」
ヨーロルは頭を下げて席に着いた。
児童らは高レベル魔法士の殺気混じりの愚痴に、少々引いているようである。失策を悟ったドヌンゴは、慌ててフォローに回ることにした。
「もちろん、人格に問題のある人でもパーティを組めないわけではありません。隷属系の呪い装備を自分にかければ、人格の矯正はできます。牢獄系のダンジョンでは比較的ドロップしやすいので、良ければ狙ってみてください」
主人が自分自身なので自由に付け外しは可能なので、比較的リスクは少ない。
無理やり人格を矯正するので、入ったパーティが悪いといつの間にか胃を痛め、引退に追い込まれることもあるが。
「皆さんが実力と品位を兼ね備えた優良な冒険者となることを、ギルド職員として願っています」
そう言ってドヌンゴが頭を下げた所で、ちょうど終業のチャイムが鳴った。
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