偉人転生録ニュートン・オブ・ニュートン(カクヨム版)

Prologue

 この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体・名称等については、うろ覚えの知識と、その場で検索・斜め読みした情報を元にしているため、あんまり関係ありません。

========================



 【偉人転生】――過去の偉人の知識と能力を持って生まれることを、人々は冗談混じりにそう呼んだ。

 最初の偉人転生者が観測されてから七年。世間では【偉能力】を犯罪に使う【偉能力者】と、それを取り締まる【偉能狩り】との戦いが、毎日のように繰り広げられている。

 とある偉人に由来する【偉能力】を持つ青年、藍沢あいざわ 柔人にゅうと。彼もまた悪しき【偉能力者】を狩る、フリーの【偉能狩り】だった。



 § § §



 凧に乗って飛び立とうとした男を、地面に叩き落とす。

 怒り狂う男から放たれた稲妻もまた、柔人は軽く散らしてみせた。


 いずれも原理は同じことだ。中学生レベルの物理学である。


「くっ、何故だ! 何故この俺様の偉能力が通じない!」


 だから、その光景が、現実離れして見えるとすれば――それは単に、観測者の教養が欠落しているのだろう。


「万有引力って、知ってるか?」


 人が地を這うのも、雷雲と地面が引き合うのも、《引力》によるものだ。

 ならば。引力を強めれば凧は落ちるし、引力を散らせば放電は起きない。


「引力……だと……ひょっとして、あんたは……ッ!?」

「そう、そのまさかだ」


 彼、藍沢柔人の名を知らなくとも、僕の“前世の名”なら誰だって知っている。


 手裏剣さながら投げつけられた郵便葉書を、長3封筒を、赤や青のレターパックを。一纏めに《引》き寄せ、相手の能力圏から《引》き剥がす。そうすれば、いかなる偉能力が込められていようが、最早ただの紙切れだ。

 手で払って散らした時には、それを放った男は振り返ることもなく、路地の奥へと掛け出している。紙束は目眩ましのつもりだったのか、勝てないと判断してからの、思い切りの良さは柔人から見ても称賛に値する。

 ただ、その判断自体が遅かった。


「くそっ、ついてねえ! なんでこんなところに、そんな大偉人が……」


 数十メートルの距離を大股の一歩で《引》き寄せて、柔人は逃げる男の真正面に回り込む。怯えた男は振り向きざま足を滑らせて、地球の《引力》により勝手にスッ転んだ。


 引力は万物に宿る。故に、万有引力は万象を操る、最強の能力。


幕引きだpull over


 偉能力者の男は断末魔の声も上げず、《引》き倒された廃屋により圧殺された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る