中世攻城戦におけるクジラ爆弾の有用性について
中世攻城戦におけるクジラ爆弾の有用性について
浜辺等に座礁したクジラの死体が爆発することは有名だ。
原因は死骸内部に蓄積したメタンガス等が膨張、破裂することであり、必ずしも急速な燃焼による「爆発」ではない。
勿論、可燃性ガスなので火気をもって本当に爆発させることも可能だ。
後者の方が破壊力は高いが、前者でも人を吹き飛ばす程度の威力はある。
さて、このクジラの死体を攻城戦に用いる場合、大きく分けて2つの方法がある。
1つ目は、これを城門前に配置する方法。
馬車の荷台に積む、並べた丸太の上を転がす等して敵の目前まで運び、放置して退避……当然ながら危険も大きい。
接近中に爆発物を投擲されれば、クジラに引火し、一方的に自軍が爆発被害を受けることになる。
ただし上手く設置できれば、放置するだけで確実に門は破壊される。
門前を塞いでいるため、敵は打って出ることも出来なくなり、クジラが爆発するまで手をこまねいているしかないのだ。
もし相手がクジラの爆発を知らず、油をかけて火でも放てば、しめたものだ。
クジラは即座に大爆発を起こし、混乱する敵城へ一気に攻め入ることができる。
2つ目は、投石器を用いてクジラの死体を城壁内に放り込むこと。
落下時の衝撃で即爆発し、どこに落ちても甚大な被害を与えることができる。
また、腐敗した肉片から疫病が広がり、二次災害的に防衛戦力を大きく削ることも可能だ。
仮に爆発しなくとも、クジラが降ってきたらその質量だけで十分な大打撃だ。
唯一の問題は、クジラを投げ飛ばすほどの投石器を用意することが困難である点だ。
とはいえ、クジラの死体を攻城戦のために用意できる調達力・輸送力を鑑みれば、大きな問題とはなるまい。
クジラ爆弾による攻城作戦は、史実の中世ヨーロッパでも広く行われていた。
最も有名なのは1453年のコンスタンティノープル包囲戦、東ローマ帝国の首都が陥落した戦いにおけるものだ。
ハンガリー人技術者ウルバンが開発したウルバン砲は、なんと、クジラの死体を海上から直接コンスタンティノープルまで投擲することが可能であった。
ウルバン砲には命中精度という欠点はあったものの、当時の黒海・地中海には鯨油と髭を抜かれたクジラの死骸が無数に漂っており、残弾数を考慮する必要は無かったと言われる。
大量に投げ込まれたクジラはその質量と爆発によってコンスタンティノープルの城壁内を粉々に粉砕。
結果として、クジラは長きに渡り欧州の覇者であったローマ帝国が滅亡する、直接的な要因となったのである。
なお史実では、中世後期にクジラ爆弾の使用が条約により禁止されている。
つまり、クジラ爆弾はかつて、明文で禁じられるほどの猛威を振るったということだ。
ネット小説では今尚、中世ヨーロッパをモデルにした異世界ファンタジー小説が人気を博している。
その世界観にリアリティを持たせるために、クジラ爆弾の導入を検討することは、皆さんの執筆活動において何らかの意味を持つかもしれない。
<了>
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※本テキストは「中世ヨーロッパで攻城戦にクジラ爆弾が使われていた世界」で書かれた架空のエッセイであり、実在の人物、団体、地名、事件、兵器、クジラ爆弾等とは一切関係ありません。
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