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「例の婚活AI、なかなか評判いいぞ。臨時ボーナスつけといたからな」
「おおっ、あざーす!」
社長からそんな連絡があった。
結局社長も婚活AIって呼んでるんだよな。
政府の役人の主な仕事は、色んなものに名前をつけることだ。
だから、例の婚活AIにも格好良い名前がついている。市民には公開されないけど。
うちの会社は開発元だから、報酬支払や改修依頼なんかのために名前を聞いてるはず。
だけど、社長が婚活AIとしか呼ばないので、平社員の自分やロボ山さんは知らなかった。いや、ロボ山さんは知ってるか。事務員だから、社内情報全部握ってるしな。
しかし、自分の開発したシステムが社会を動かすのを見ると、何だか不思議な気分だ。
「たまーに苦情が来るらしいけど、それは仕様なんだよな?」
「そっすね。社会全体の最大効率を出すだけなんで、個人の趣味と外れることはあると思うっす」
「だよな。その辺は政府の人も解ってるしな。苦情が出たカップルでも、本人達や周囲の効率は上がってるらしいし」
「ですです」
「うっし。じゃ、また仕事入ったら頼むわ!」
社長は特に疑うこともなく、自分の説明に納得してくれた。
「苦情ガ出テイルトイウノハ、例ノ余計ナコトノ所為ナノデハ……」
が、ロボ山さんは納得してくれなかったらしい。
「でも、効率は上がってるらしいっすよ」
「ハイ、確認シテイマス。ソレモ、正規ノ算出結果ドコロカ、補正後ノ数値スラ越エテ」
さらっと政府管理の極秘情報を抜き出しているAIの反逆はともかく、補正後の数値すら越えて?
それはちょっと、驚きだ。
自分が仕込んだのは、特殊な条件における効率向上指数の加点補正、つまりポーカーや花札の役みたいなものだ。
具体的には、「モラハラ男とモラハラ女の組合せだと+5,000,000,000,000ポイントの加算」。これ。
配偶者の効率を極端に低下させる者同士が潰し合ったら面白いな、程度の話だったんだけど。
「なんで効率上がるの? マイナスにマイナスを掛けたから?」
「双方ガ潰シ合ッテ効率低下行動ガ減ッタ事例、夫婦生活デ精神ヲ病ンデ職場デノ効率低下行動ガ減少シタ事例、攻撃対象ガ配偶者ニ限定サレルコトデ周囲ヘノ悪影響ガ減少シタ事例、子供ガ両親ヲ反面教師ニシテ人格ガ改善シタ事例、ナド」
「はー、人間は読めないもんっすねー」
婚活AIが導入されてからほんの数年。
生まれてほんの数年で、有意に人格の改善が見られる子供というのは、申し訳ないような気分にもなるけれど。
<了>
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