Thank You Very Much, Mr. Torenji
怪奇!? 他人に感謝をしない女!!
ひょんなことから「感謝を取り立てる力」に目覚めた能力者・
しかしある日、そんなルイ子の前に、彼女にとってあまりにも相性の悪い強敵が現れる。
「自分の正当性を確信する力」の使い手、姫川令子――他人に対して一切の感謝をしない、史上最悪のダーク能力怪人だ。
「なっ……私の能力が効かない……ッ!?
私は確かにさっき、この人にレジの順番待ちを譲ってあげた筈なのに……。
それに、どうでもいい無駄話を真面目な顔で聞いてあげたし、傘を置き忘れたのも教えてあげた……!」
「ウーフフフフ! この世の全ては私の奴隷!!
私に尽くし、私に貢ぎ、私を甘やかすのが当然!!
感謝などする必要があって?
むしろ、それを取り立てようとする貴女が強盗ですのよ、鳥館ルイ子!!」
ルイ子の能力は、「感謝を取り立てる力」。相手が自分にほんの僅かでも感謝の気持ちを抱けば、それを盾に相手の行動を操作することができる。今までのダーク能力怪人は、いくら悪の道に染まった犯罪者であっても最低限の人の心は持っていた。しかし、この相手にはそれが無い。
「ウーフフフフ!
(※発言内容が人権問題に抵触するため削除)!!
(※発言内容が特定の集団への中傷に当たるため削除)!!」
「な、なんてことを!」
「(※発言内容が不特定多数への中傷に当たるため削除)!!!」
「よくもそんな邪悪なことが……貴女には人の心がないのか!」
「まあ! どうしてそういう酷いことを言えるの? 【私は何も悪くない】のに!
【そんな人でなしは、金属バットで殴られても仕方ない】ですわね!」
その言葉をトリガーに姫川の能力が発動し、姫川は「自分は何も悪くない」、「ルイ子は金属バットで殴られても仕方ない」と心から信じてしまった。
一切の躊躇、良心の呵責を捨て去ったダーク能力怪人・姫川令子は悠々と金属バットを振りかぶり、手加減無しに振り回す。その鋭いスイングはルイ子の左半身を集中的に襲った。
「うわーっ!! 痛っ! マジで痛い! やめっ……折れる!」
「ウーフフフフ! 良い気味ですわ! 当然の報いよ!」
危機に追い込まれたルイ子は全力で走って怪人のストライクゾーンから離脱した。
(こんな……能力が通じない相手に、どうやって戦えば……)
近くの公園の滑り台に寝そべって隠れたルイ子は、腕の痛みもあって憔悴しきっていた。このままでは勝ち目がない。しかし、どうすれば勝てるのかまるで思い付かない。
「鳥館ルイ子! 隠れているのは解っていますわよ!」
ガツン、ガツン、と金属バットをアスファルトに叩き付けながら姫川が近付いてくる。
「出て来ないつもり?
ウーフフフフ! それならそれで結構!
今頃、貴女の仲間達もジャークネスのダーク能力怪人にやられている所でしょうからね!」
(なっ、仲間達が……!?)
「怪人達が1人1人、好きな相手を選んで襲撃し、連携が撮れない内にまとめて始末する計画ですのよ。
大抵の怪人は、能力の相性で選んでいましたが、私が貴女を選んだ理由はね……能力なんて関係なく! 顔が嫌いだからですのよ!! ウーフフフフ!!」
(えええ……それこそ相性の問題では……?)
「目障りなヒーローごっこも今日までですわ!」
顔が嫌い、そんな理由で、ここまで相性の悪い相手が自分を選んだことに、ルイ子は少なからず苛立ちを覚えた。
必ず勝つ。そして仲間達を救いに行く。
ルイ子は懸命に思考を巡らせた。
その時、ルイ子は公園の方へ近付いてくる声を聞きつけた。
『――でございます。東京都知事候補の
(……! これだッ!!)
ルイ子は足で反動をつけて滑り台から飛び起き、声のする方向へ走った。
「みぃつけた……!
鳥館ルイ子、覚悟しなさい……!」
いつの間にか、姫川の持つ金属バットは2本に増えている。捕まれば死ぬかもしれない。ルイ子は振り向かずに走り、大通りの脇の歩道に飛び出した。
『生まれた県は青森なれど、困窮する東京都民を救います。国家に報い、民を安んじることを誓います。東蓮寺、東蓮寺正親でございます』
そこにいたのは、都知事選の泡沫候補が乗る選挙カー。ルイ子が選んだ勝利の一手。
ルイ子は、その選挙カーに向けて笑顔で手を振った。
『ありがとうございます、ご声援ありがとうございます』
たったそれだけで、スピーカーからはウグイス嬢の感謝の声が流れる。
ちょうどそこへ、姫川が金属バットで歩道のタイルを叩き割りながら現れた。
「ウーフフフフ!! 追い付きましたわ! 死ねえ鳥館ルイ子!!」
「ふっ……遅かったね、ダーク能力怪人。
既に、感謝は貯まった」
「ふん、何を言っていますの? 私は感謝することなんて……」
「【恩を返して】」
『わかりました』
ルイ子の言葉に従い、選挙カーのハンドルを奪ったウグイス嬢が車を姫川に向け、全力でアクセルを踏んだ。
「ひぇっ!? 避け、無理……キャーッ!!!」
重い音が響き、ダーク能力怪人・姫川令子は全身を吹き飛ばされた。周囲は阿鼻叫喚の大騒ぎだ。
能力者の耐久力であれば死ぬことはないが、病院送りは免れない。
選挙カーの面々は青い顔をしているが、事故の相手がダーク能力怪人であることが判れば、英雄としてむしろ浮動票の獲得にも繋がるだろう。
「礼は要らないよ」
ルイ子は小さく呟き、今も怪人と戦っている仲間達の元へと急いだ。
<了>
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