後編

上島竜兵は、俺にあやかろうとしていた。


竜兵会のリーダーダチョウ倶楽部上島竜兵。


彼は、さまよう者を監視することが好きであった。


芸能人である彼にとって退屈しのぎが、このさまようものの行動の監視。


その行動を笑ったり、流儀などルールをクイズのように予想したり。


ダイハツの車に乗る俺を、盗聴、盗撮していた。


さまようものに興味を持ち、人気や勢いのある若い俺に、のちに近づき、俺を竜兵会へ入会させ、なんとか人づてに、竜兵会に綺麗な女性を入れようと目論んでいる。


竜兵は時折、俺を追跡することがある。


とくにセブンイレブンで遭遇する妄想が多かった。


さまよう者によく言う言葉が、長い旅や目的の分からない旅を続ける者に、


タウンページは買うなよという言葉である。


俺が少しでも、タウンページを買おうとか、そういうそぶりを見せたとき、おそらく、竜兵は許さないだろう。


自分のあてのない旅に、目的や、答えや正解を簡単に導くなという意味なんだろうか。


俺はそういう風に解釈した。


俺は、ある日思った。


童貞を守り死守し続ける俺は、しんどかった。


女性を危険視し、避けることも。


少しの癒しが欲しかった。


癒しとは何か。


俺が企画したかった女性の癒し。


それは。


ノーパンカルタである。


俺は、小学校中学校の頃の女子友達とノーパンカルタをしているところを想像した。


だが、それをやるとしたら、もう竜兵会が黙っちゃいない。


ノーパンカルタだとぉ!


許さん!


俺も参加する!


上島竜兵が必ず動くだろう。


それを心よく思わないのは、女性陣たちで。


少しでも竜兵会に興味をもとうものなら、


『竜兵会には絶対入っちゃだめ!』


と、とくにあずきさんや、乃木坂、AKBの子たちの面々が申している。


だから、俺は、極力竜兵や竜兵会には関わらないようにしよう。


コンビニで竜兵を見かけても、無視しておこう。


そう思った。


でも、ノーパンカルタはやはりヤリタイ。


地元の下の句カルタの練習場で、俺はひっそりとノーパンカルタをやる妄想をした。


女性陣はノーパンどころか、全裸のスッポンポン。


千花ちゃんが特に、ノリノリだった。


これじゃあ、ノーパンカルタではなく、全裸カルタである。


しかし、俺はなぜか、そのノーパンカルタでは、目隠しし、目隠ししたまま、下の句カルタの札を読んでいる。


目隠しした俺の前で、俺がなにも見えないことをいいことに、千花ちゃんは、スッポンポンで俺の目の前で踊り狂う。


千花ちゃんは笑ったまま踊りまくる。


その声と気配に、俺は、


『見てぇー! めっちゃ見てぇー!』


と叫ぶ。


彼女らの美しき女体の姿を目視できずして、ノーパンカルタをやる意味があるのだろうか?


そんな妄想をする。


だが。


そんな妄想なんて、どうでもよかった。


今。


この状況。


俺は、妄想だが、アンジャッシュの渡部さんとカラオケボックスにいる。


もう2000円しかない。


2時間くらい歌っただろうか?


お金の存在に気づき、料金のプランもよくわからないまま、レジへ会計を済ませようとした。


値段は……


2時間で1000円だった。


やっす!


飲み物なしで、歌うだけ。


でも夜の時間帯。


そんな安いだろうか?


何か記憶違いかもしれないが。


もう1000円しか残っていない。


俺の車でもうここから、1000円で早急に帰ることを考えなくてはならない。


俺は、店を出て、車に乗り込んだ。


長いドライブが始まろうとしていた。


何時間かかるだろうか?


給油は大丈夫だろうか?


燃料は間に合うだろうか?


お金はそこをつきないだろうか?


とにかく俺は、帰ろうと思い、家へと向かうため車を走らせた。


このダイハツの車は、あまりスピードが出せない。


というか、出したらなんか壊れそう。


以前、スピードを出しすぎて、ギアが飛んだことがあった。


もうこのダイハツの車も寿命だろう。


ゆっくり走らないとギアが飛ぶ気がしていた。


だから、俺は、40キロくらいで、ずっと長い夜の直線道路を走行していた。


このペースで帰ったら、もしかしたら6時間くらいかかるかもしれない。


長い道のり。


長い運転。


疲れた体。


不眠不休で、体に鞭打って、あてもない、答えのない、番組になるであろう、旅の運転。


俺の体は限界を迎えていた。


急に強い睡魔、眠気に襲われていた。


眠い。


酷く眠い。


これは、危ないと思った。


どこかで休憩して寝ようと思った。


でも、どこに車をとめて寝ていいのだろうか。


ルールを気にしていた。


町はずれ、でて、長い直線をずっと走っていたため。


俺は、どこに車を止めるべきか困惑していた。


この道路の直線の隅にウィンカーをつけて、止めて、仮眠をとるべきか?


いや、それは駄目だ。


危険だ。


やめておこう。


運転を続けることにした。


だが眠い。


もう限界だ。


その時だった。


禁断症状なのか。


何か危ないものが見えた。


夜の車の中。


外は真っ暗な道路で。


道路の真ん中付近を、人ではない人のような、黒い影のような何かが、テクテクと歩いている姿が見えた。


これは、なんだ。


俺の体は、氷ついた。


怖い。


恐怖の気持ち。


幽霊か?


幽霊なのか?


俺は、怖がり恐怖しながら、その影のような者を気にしながら、車を通過させた。


その影を車が通過していこうとした瞬間。


俺の体の中に、何かをとりこんでいく感覚があった。


これはなんだ。


体が。


心が。


震え。


覚醒する。


さっきまでの恐怖が。


どんどん好奇心、興味に変わって行き。


見える視界に映るすべてが。


幽霊や、巨大生物、あるいわ、巨大物体に見えてきて。


それは、逆にその恐怖に好奇心を抱き、その恐怖を求めた。


視界に映る恐怖は、全ておかしなものに見えた。


標識が、なんか変な巨大な形に見えたり。


標識が、モスラに見えたり。


標識が、東京ドームのような盛り上がった建物に見えたり。


どんどん不思議な気持ちになった。


眠気が恐怖。


恐怖が好奇心。


好奇心が歓喜に変わっていった。


面白い。


楽しい。


これはなんだ。


これは、おそらく。


危険因子を察知した、俺の体の防衛本能か。


そうでないのか?


幽霊を見るくらいの非日常的体験でもしない限り、寝てしまうと考えた俺の体の防衛本能なのか?


はたまた優しき幽霊たちの虫の知らせなのか。


俺は、謎に包まれたまま、一晩中車を走らせ、朝を迎えた。


朝になっても、車を走らせ続けた。


家は遠い。


まだつかない。


給油は大丈夫だろうか。


もう少なかった。


やばい。


急いで、給油しなきゃ。


ちょうど家の近くの隣町についているころだった。


そこで、残り少ない1000円を給油し、俺は、家へと向かった。


向かっている最中も妄想は止まらなかった。


いつも多くの妄想で、多くの人が集まる場所があった。


それは、ウエスタンと呼ばれる地元のバイキングだ。


大きな、小上がりの席で、よくわからない、種あかしというか、答え合わせというか。


まず、その集まりはいったいなんなのか?


まぁ、つまりは、俺を監視し続け、その結果みんな何を感じ、何を思って、今後どうしなければならないか、組織や芸能人やプロ野球選手らが集まったりして、直接やりとりするサミットの場である。


このサミットの場でいつも話題の中心は俺だった。


俺が話題の中心で。


このバイキングサミットは、さまざまパターンがあるが。


上島竜兵のことを思い出したとき。


上島竜兵は言う。


『おれは、さまようものの行動が大好きだ。わとそん、お前の行動がすげー好きだし、面白いと思ってる。でも、なんで、俺ばっかり、避けてる。お前は、女の子や俺のことばっかり避けてるだろう』


俺は、それに、


『いや、上島さんは、竜兵会のトップで、俺にとっては、すごい人なんで、俺なんかが竜兵さんと関わるのは良くないと思っています』


上島竜兵はこう返す。


『おまえよ。嘘つくなよ。俺は、さまようおまえをいつも見てるから知ってるんだよ、お前はいつも、体をぼろぼろにして、自分傷つけて、苦労して。そんな自分殺してまで、お前頑張って生きようとするなよ』


そんな優しい上島竜兵の言葉に。


思わず、俺も、竜兵も涙を流す。


『やっとわかりあえたぜ……』


なんてことを竜兵が勝手に言いながら。


その同時の涙に。


心の通い合いを感じる。


上島さんはいい人だ。


きっと、竜兵会に入ったら、可愛がってくれるだろう。


竜兵会に入ろうかな?


と気持ちが傾いた瞬間。


その会場に座っていたあずきさんや、コヒレの面々、女の子たちが。


竜兵会にはいっちゃだめ! 騙されちゃだめぇ!


と叫ぶ。


おっと危ない。


竜兵会に心を持って行かれるところだった。


その後おれは、女の子たちと会話した。


コヒレの子ととくに会話していたと思う。


普段は、俺は全然パチ屋で自分の事を話さない。


あえて、話さないことで、秘密主義を貫き、ミステリアスに自分を魅力的に見せていたつもりだった。


その後もいろんな妄想が頭をかけめぐったが。


家に着いた。


すっかり朝も終わり、昼だった。


家には、親が心配の眼差しで、俺に話しかけてきた。


あんた、いったい、どこにいたの?


俺は、答えた。


やっぱり美幌峠は越えられなかったわぁと。


その後。


俺の妄想で。


峠を越えようとしたあの日の一日は、いったいなんだったんだろうかと?


テレビ番組でその様子が流れ。


みんなその謎を深めていったのである。

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さまよう者の流儀 ワトソン @cpfd777

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