第33話今日からお世話になります

「クロード様、急にご厄介になって大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。マーカスなんかは大喜びだ」




クロード様の馬車でクロード様の邸に向かっているはずなのに、方向が違っていた。




「クロード様…どちらに?」


「少し騎士団に用事がある。俺の勤めている屯所なんだが…ラケルは馬車で待っていてくれ」


「はい」




騎士団の屯所に着くと、敷地内に馬車を止めてクロード様は中に一人で行ってしまった。


今日はお休みだったけど、お忙しいのだろう。




しばらく待っていると、クロード様と数人の騎士様達が出てきた。




挨拶をするべきなんだろうけど、クロード様は馬車で待っていろと言った。


今はまだ正式に挨拶をするべきではないのかと思った。




窓から見るとクロード様はからかわれたのか少し照れている。


私はせめてと思い、窓越しに会釈をした。


クロード様は軽く手を上げ振ってくれ、騎士様は会釈を返してくれた。




クロード様は用事が済んだようで、駆け足で馬車に戻ってきた。




「すまない。待たせた」


「大丈夫ですよ。そんなに待ってませんから」




何の用事か言わなかったから、きっと仕事のことだと思った。




そして、クロード様の邸に着くとやはり大歓迎だった。




「ラケル様!クロード様と婚約おめでとうございます!」


「ありがとうございます。まだ結婚前ですがよろしくお願いしますね」




執事のマーカスさんはやはり感涙だった。




私に用意された部屋は陽当たりのいい部屋で、クローゼットもまあまあ広い。




「結婚してもこの邸で生活することになるから、結婚すればすぐに主寝室の隣に移って欲しい。それまではこの部屋でいいだろうか。別の部屋が良ければ…」


「この部屋で充分ですよ」




クロード様のお父様が存命中は領地の本邸に行かず、爵位を継ぐまでは騎士の仕事も続けると、話された。




「こんな事態だが、ラケルが初めて邸に住む日だ。夜は晩餐にするから、二人でゆっくり食べよう」


「はい、楽しみですね」




そして、荷ほどきをし、伯母様に今度クロード様とお邪魔することなどを書き、手紙を出した。


マーカスさんはすぐに出します、と言って手紙を快く引き受けてくれた。




晩餐には、張り切ってドレスの支度をした。


私の支度をしてくれるメイドのアンも何故か張り切っている。


中々手際がいい。


だが、耳の後ろに見たことのない香水を少し、塗るようにつけられた。




「アン、その香水は?私のではないですが…」




いつの間にか、クロード様が香水を買ってきたのかしら?




「男を誘惑する香水です!マーカスさんの許可はとっています!」




私の許可は!?


堂々と変なものを私につけないで欲しい。




「…あの、どうして?」


「クロード様もラケル様も真面目ですから!」


「クロード様も真面目ですか?」


「仕事一筋の方ですから」




では、時々迫ってきそうなのは何でしょうか。


結婚してくれ、と言われた時は、私に覆い被さってきそうでしたよ。




支度が済み、部屋を出るとクロード様が待ってらした。


クロード様の容姿は完璧だ。


あまりに素敵過ぎて、今まできっとメイベルみたいなタイプがすぐに寄って来て、クロード様は女性を遠ざけていたのかもしれない。


しかし、奥手には見えない。




「ラケル…香水を変えたのか?」


「少しだけ…不思議な香水をつけました」




早速、香水の効果があるのか。


クロード様を見上げると、また私を見ていた。




「クロード様…今日はありがとうございました。とても助かりましたし、側にいてくれて心強かったです」


「あれくらいどうってことない。困ったことがあれば何でも言ってくれ」


「ありがとうございます」




ハロルド様のことはもう大丈夫だと思う。


ハーヴィ伯爵があんなに怒っているのは初めて見たのだから。




クロード様がすぐに結婚したいと言ってくれたから、結婚も近い。


準備で忙しくなるから、正直ハロルド様に関わっている暇はないのだ。






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