第17話心臓は早鐘

支度が完了すると、メイドの方が、お支度整いました!と廊下にいるであろうクロード様をお呼びした。


まるで、花嫁の支度を待っている新郎のようだ。




「クロード様、ドレスをありがとうございます。どうですか?」




男性にこんなことを聞くのは初めてで少し照れてしまう。


でも、男前のクロード様の隣でも恥ずかしくない姿だと思いたい。




「…綺麗だ」


「ありがとうございます」




さすが紳士です。


きちんと、誉めて下さいましたね。


しかし、執事の方の方が感涙だった。




「お嬢様、素晴らしいです!お美しいです!」


「あ、ありがとうございます」




クロード様は、隣にいる執事の方を、邪魔をしないでくれ、というように睨んでいた。




「クロード様、睨み付けては執事の方が困ってしまいますよ」




ふふっ、と笑顔でクロード様に寄ると、そうか、とクロード様は少し赤くなった。




「…今度は宝石も買う」


「だから、それは結婚相手にどうぞ」


「ラケルに買う」




断ろうとすると、執事の方がぜひ!と元気に言ってきた。




「お嬢様!ぜひクロード様に買って頂いて下さい!クロード様にお金の心配は要りません!」


「そ、そうですか」




凄い勢いだわ。


もしかしてクロード様は女性に縁がなかったのかしら。


この顔で女性に縁がないなんて信じられないけど。




馬車に乗り込む時には、必ずまたお越し下さい!と執事の方は必死だった。




「執事のマーカスがすまない」




クロード様はすでに疲れていた。


何か言われたのだろうか。




「皆様良くして下さいましたよ。楽しかったです」


「それは良かった」


「執事の方はクロード様が心配なのですね」


「マーカスは産まれた時からいるんだ。俺だけこちらの邸に来ることになって、さっさと後任の執事に本邸を任せて一緒について来たんだ」


「まあ、そうだったのですか」




偽物の彼女だと言うと、マーカスさんの心の臓が止まりそうな気がするわ。


何だか申し訳ない。




そう思っていると、膝の上にのせている手にクロード様が、重ねるように手を握ってきた。




「手ぐらい繋いでいいだろうか?」


「勿論です。着いたら腕を組みますわ」


「そうか…」




そう言うと、クロード様は手を繋いだまま窓の外を見ていた。


クロード様は照れてると思う。


思わず口元が緩みそうだった。




しかし!そんなことを気にしている余裕はない!




私の心臓は早鐘を打っております!




馬車が到着するまで私の心臓は持つのか!?




ガラガラと進む馬車の音より速い心拍を抑えながら、目的地へと向かっていた。






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