第13話買い物

昼には約束通り迎えに来て下さった。




「待たせたか?さぁ、行こうか」


「買い物でも、誰が見てるかわかりませんから、しっかり彼女のフリをしますね」


「そうだな」




また、いつクロード様の上司の娘が見てるかわからない。


ちゃんと約束通り彼女のフリをしますからね。


そうクロード様にニコリと笑顔を向けるとクロード様は少し微笑んだ。






クロード様に連れて行かれた店はオートクチュールの高級店だった。




「クロード様、このお店はかなりお高いですよ」




さすが公爵家と言いたいが高過ぎです。




「俺の我が儘を聞いてくれるのだから、気にしなくていい」




連れて行かれるとアラステア公爵家御用達の店のようで、クロード様は顔パスだった。


クロード様の来店に気付いたマダムのような店主はすぐさま挨拶に来た。




「まぁ、クロード様。ご用でしたらすぐにお邸に伺いましたのに」


「いや、いい。彼女にドレスを仕立ててくれないか」




仕立てる?今から?


クロード様の上司の晩餐は明日ですよ。




「今から仕立てて、晩餐に間に合いますか?」


「晩餐用は店のを買って、他のは仕立ててもらえばいいじゃないか」


「…何着買う気ですか?」


「決めてないが」




偽物の彼女にどれだけ金を使う気だ。


すでにマダムは生地を出し始めているし。




「クロード様、一着で充分です!」


「しかし、俺が無理を言ったのだから…」


「お返しができません」


「ものはいらないが…では晩餐用のドレスともう一着だけ仕立てるか?それなら受けとってくれるか?」




この人は本気だろうか。


店のドレスだって一点もののドレスしかないから高いのに。


それともクロード様にとったらこの値段は高くないのかしら。


あまり断るとクロード様に恥をかかせてしまうような気もする。


しかし、高い。




「ラケル、どうした?」


「…クロード様、ドレスは高くないですか?」


「これくらいなら普通だろう。本当に気にしないでくれるか」


「わかりました。では、二着だけお願いいたします」




何だか悪いと思いながらも、クロード様の押しに負けそうで結局二着買って頂くことになった。


マダムが奥のゲストルームにどうぞ、と言って下さりクロード様と行こうとすると、急に後ろから声をかけられた。




「お姉様?」




私をお姉様と呼ぶのはメイベルだけだ。


メイベルがこんな店に一人で来るわけがない。


振り向くとやはりハロルド様もいた。


そして、ハロルド様は何故かため息を吐いた。



「ラケル、こんなところまで男を連れて俺を追いかけて来ないでくれ」




ハロルド様の頭の中で私はどういう立ち位置なんだろう。


一度も追いかけたこともないのに、何故か婚約破棄され、ハロルド様にいつまでも縋る女という構図なのだろうか。




メイベルを見ると、顔を赤らめてポーッとクロード様を見ている。




「君はハロルドといったな。ラケルは君を追いかけて来たのではない。俺がラケルにドレスを買いに来たのだ。勘違いしないでくれないか」




クロード様は不快感を表し、ハロルド様を睨んでいた。


ちょっと怖い。




「たかが平民の騎士にこの店のドレスが買えるわけがないだろう。冷やかしは店の迷惑だぞ」




当たり前だ!


平民がこんな老舗の高級オートクチュールに来るわけがないでしょ!


メイベルと婚約してから益々残念さに磨きがかかってきているように見えるわ!




「何故俺が冷やかしに来なければならんのだ」




クロード様は頭を抑えるように冷たい顔のまま呆れていた。


フフンと鼻を鳴らすハロルド様を見ると婚約破棄されて心の底から良かったと思った。


こんな歪な傲慢な男は私には無理だ。




「クロード様、お名前をおっしゃった方がよろしいかと。私がご紹介しましょうか?」


「いや、自分で名乗ろう」




ハァーとクロード様も呆れるようなため息を吐いた。



「俺は平民ではなく、アラステア公爵家のクロード・アラステアだ。この店は我が家が以前から世話になっている店だ。冷やかしではない」


「冗談でも公爵家を騙るなんて笑えないぞ。ハハハ」


「ハロルド様、冗談ではありませんわ」




笑えないと言いながら、ハハハと笑うハロルド様はおかしな人そのものに見えた。




ハロルド様をチラリと見ながら、マダムはクロード様にシャンパンの準備が出来ましたのでゲストルームへどうぞ、と案内に来た。




「ゲストルーム?」




ハロルド様の笑い声が止まった。


おそらくハロルド様は奥のゲストルームに案内されたことがないのだろう。




「こちらのクロード様は公爵様のご嫡男様です。さぁ、クロード様、いつものゲストルームへ」




マダムは、今までの会話をしっかり聞いていたように、ハロルド様にそう言った。




「そ、そんなはずはっ!嘘だ!」


「何故俺が嘘をつく必要がある」




予想通りハロルド様は狼狽えていた。


さすがに公爵家と揉めることは不味いとわかっているようだ。


そして、クロード様が公爵家の方と何故すぐに信用しないのか。


もし万が一公爵家を騙れば、犯罪になるのに。




そして、ポーッとしていたメイベルがこの空気をかき消すように口を開いた。





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