第6話気を引く気はない!

今日の夕食はクロード様とご一緒する予定だから、邸の自分の部屋にドレスを取りに行った。


どこに行くのかわからないけど、多分レストランだろう。


夜会に行くようなドレスではなく、落ち着いた、スカートの広がりのないドレスを選んだ。


しかし、またドレスが減っている。


どうせメイベルが取ったのだろう。




「お姉様、邸に戻ったのですか?」


「いいえ。…メイベル、また私のドレスを取ったのね」


「使わないのを悪いと思わないのですか?せっかくお父様が買って下さったのに」




勝手に取るのは悪いと思わないのか!




「部屋には勝手に入らないでね。…私は今から出掛けますから」


「どこに?」


「お食事です」




私と一緒にメイベルを部屋から出し、扉を閉めると、丁度ハロルド様がいらした。


メイベルはすかさずハロルド様にすり寄って行った。




「どうしたんだ?メイベル」


「お姉様が外で食事をすると。私達とは食事が出来ないと言っているんですわ」




メイベルの言葉にハロルド様はキッと私を睨んだ。




「ラケル!君はどうしてメイベルに意地悪なんだ。俺達が追い出しているみたいじゃないか!」


「食事に行くと言っただけですけど」


「それが当て付けだ。わざわざ、外で一人食事をするなんて、」


「一人ではありませんよ。お誘いを受けましたから」




するとメイベルが、プッと笑みをこぼした。




「お姉様ったら、そんな見栄を張らなくても。きっとハロルド様の気が引きたいのですわ」


「そうなのか?メイベルに意地悪をしてまでそんなことをするなんて…俺の気は引けないぞ」




気を引く気は全くない!


ハロルド様は私が本気で好きだと思っていたのかしら。


一度も好きになったことはありませんが。


むしろ、婚約破棄されて良かったと思いましたが。


メイベルも私がクロード様からお誘いを受けているなんて思いもよらないでしょうね。




「お約束の時間がありますので失礼しますわ」




そう言いながら、ショールを肩にかけ、何故か勝ち誇った二人の横を振り向かず、淡々と通り過ぎた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る