第4話 論点ずらし

 この世は理不尽なことばかりだ。特に社会人だとその傾向は顕著になる。これは仕事が日常の主となる影響が大きい。また自分の境遇が理不尽だと感じられるまで成長しているという理由もある。


 課長からの指示で行った作業を部長にとがめられ、課長に確認すればそんな指示をした覚えはないとか。前任が残した致命的なミスについて取引先にお叱りを受けたりとか。


 理不尽を理不尽と思わない心を身につけたいと常々思っているが、それもまた難しい。自分の中で確立している理不尽ラインを少し下げるだけでも一苦労だ。


 そんな理不尽を、目の当たりにしている。


 衛兵は、俺が王の間に召喚されることを分かっていたはずだ。にも関わらず、真っ裸の姿を見て腰布しか渡さなかった。


 つまり王の御前であっても腰布のみで問題ないと判断したことになる。


 だというのに当の王はこの姿にお怒りの様子だ。


 どういうことなんだこれは。トップとダウンの意思疎通ができていないではないか。なぜ関係のない俺がお叱りを受けねばならないのだ。


 完全に理不尽案件。俺がヤクザマインドの持ち主だったら今頃ブチギレ必至である。


 もちろんチキンハートの自分が声を荒げるはずもないが、相手の非を穏やかに伝えるくらいはさせて頂きたい。


「それはですね、衛兵の方に……」


「そもそも、なぜ裸でこの地に現れたのだ」


「…………」


 あかん。


 論点ずらしという反則技だがぐうの音もできない。何故なら俺にも説明できないから。


 正直に話してよいものだろうか。なぜ自分が裸で森の中を彷徨っていたか分からないと。


 王か領主である目前のイケメンボーイが善人と判断できるなら、何もかもぶちまけて問題ないだろう。そうでなくとも思慮分別のある御方ならば相談もできる。


 だがもしも悪人であれば。身の上話をした結果、強制労働施設に連行という未来も無視できない。身元不明の男性、しかも働き盛りだ。利用価値は低くない。


 難しい。人狼ゲームで生涯1度も勝てたことがない俺に心理戦ができるのか。なぜあいつらは、ゲームとはいえ平気で噓がつけるんだ。おかしいのはどっちなんだ。


 そんな俺の心理状況などつゆ知らず、イケメンボーイは話を続けた。


「いや。これは酷な質問だな。謝罪しよう。むしろ貴方が、"なぜ裸でこの地に現れたのか"を知っているほうがおかしいと言える」


 なに。


「どういうことでしょうか」


「ああ。私が、貴方を召喚したんだ」


「はい」


 はい?


「ここにいる3名と同様に、貴方は別の空間からこの地へ召喚されたんだ」















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る