水戸坂水門~涸沼で恋した鶴は災厄の種だった時代劇に便乗してアニメ祭りを密かに開催だあヨォ!~

美ぃ助実見子

愛、茨城戦士編

 茨城県、関東地方の北東部に位置する県であり、古は常陸ひたち国と呼ばれた場所である。


 観光と言えば、袋田の滝、偕楽園、ひたち海浜公園、筑波山、鹿島神宮であり、県を象徴する目白押しの観光名所である。加えて、霞ヶ浦、北浦、牛久保、涸沼の沼湖や筑波研究学園都市が知られ、県の名産である水戸納豆は有名どころ。


 では、茨城県の前身である常陸国を一躍有名にしたのは誰であろうか。


 それは古時代の戦国大名である佐竹義重。

 大きな毛虫の前立て兜飾りに死地から一歩も引かぬ前しか進まない勇猛果敢な戦い振りから、鬼義重、坂東太郎の異名で呼ばれ恐れられた存在である。関東の覇者と言われた北条氏と関東の覇権を争い、北は奥州の独眼竜と言われた伊達政宗と抗争したのは有名であろう。


 では、時代を進めて徳川政権下で水戸の名を有名にしたのは誰であろうか。


 それは徳川御三家の常陸水戸藩の二代目藩主である徳川光圀みつくに

 創作物語では諸国を漫遊する水戸黄門として知られる。

 悪を目にすれば成敗し、決め台詞の、『控え居ろう! この紋所が目に入らぬか。先の天下の副将軍、水戸光圀公であらせられるぞ』とバッバーンの効果音と共に三つ葉の葵の御紋が刻印された印籠で威圧制して勧善懲悪する姿にスクリーンの前の人々は魅了されたものだ。



 実は、佐竹義重・徳川光圀の高名な二人の偉人にあやかり憧れを抱く者がここ茨城県民の中にいた。


 名を佐竹さたけ光圀みつくにと言うゲジ眉がトレードマークの小柄で小太りの初老の男だ。


 決して偉人達の血筋を引く訳では無いが、偶然の佐竹性に光太郎の名をわざわざ光圀と改名した挙句に、立場をわきまえずと勝手に自称する始末。名前だけでは無く、何を血迷ったのか自身を水戸黄門と重ね合わせ、暇を見つけては県内の視察を名目の上にして、お供三人を連れてふらりと県内中を漫遊している。


 勘違いの妄想家である佐竹は、何を隠そう立派な県知事の肩書を持つ身である。


 妄想に耽るだけでも問題有のとっちゃん坊やであるのに、近隣を脅かすゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人の侵略に手をこまねいているだけでは無く、県の立場表明を明確に出来ないでいた。


 言い換えれば、侵略を食い止める便利な兵器なんかがあれば日本側に留まる。勢いあるゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人側に軍配が上がりそうだったら、平気で媚び売って寝返る。優位な陣営へ即座につくことを腹黒く目論んでいた訳だった。


 そんな邪な渦中に居ながらも黄門に仮装ふんした佐竹は何食わぬ顔で、何時もの様に二人のお供を連れてのほほんと涸沼の畔を歩いていた。


 佐竹の右に位置を取るゲジ眉のいかつい長身の作業服姿の中年男性は、佐竹の息子。


 古武術と剣術の心得があり、知事秘書兼護衛役として任を帯びている。公務時は父からはすみさんと呼ばれ、父をご老公と呼称することを義務付けられている。


 佐竹の左に位置を取るのは、非公認のご当地キャラ、納豆ネバ男君だ。

 ずんぐりむっくりの巨大な納豆粒から茶色いタイツの手足が伸びでるヌイグルミ。もちろん着ぐるみであり、中には中年男性が入っている。水戸納豆のピーアールを促進する中で、公務時も強制的に着用させられていた。公務時は、きんさんと呼ばれる。


 この二人の他にもう一人いる。ひょっこり九兵衛だ。今はいないが、その内ひょっこりと姿を見せるだろう。


 こんなへんてこな組み合わせの四人は、涸沼を訪れたのは何も漫遊だけではない。今回ばかりは仕事も兼ねていた。付近の住民からのワニガメやカミツキガメの目撃情報が相次ぎ、大々的な駆除をするか否かの判断材料を集めている。いわゆる生態系の調査だ。


 三人は涸沼の畔に生い茂るミズアオイ・ミズワラビ・タコノアシの群生地を進む中、佐竹は何故か湖面を見詰めふと足を止めた。


「隅さんや、一層の事、大々的に涸沼の水を抜いて、外来種を駆除しようかのう。面倒くさいし……」


 隅さんは、深いため息をつくと佐竹を力強く見やる。


「親父、あのさ……失礼しました、ご老公。それは現実的ではありません。霞ヶ浦で水を抜く某テレビ番組の真似をしようとして、湖水を抜く予算の決済が下りなかったではないですか。途方もない金額が掛かる上に技術的な面でも問題が……」


「はぁ~。あれは建前上の話で、マ〇ンガーなんちゃらみたいに湖の秘密基地を作ろうとした訳ですよ。霞ヶ浦の湖面がパカッと開き、こうね、私が考案した大型ロボット兵器が出撃するシーンなんかを妄想すれば、胸が熱くなる訳ですよ」


「ですから、それが問題かと……」


 佐竹は湖面を見ながら、平泳ぎの様に両手を動かしジェスチャーで隅さんに伝えようとしている。その目は無邪気な幼子そのものだ。

 菌さんは二人の話を無視して何時の間にかに着ぐるみの頭の脱ぎ、手拭いで巻いた頭の汗を懸命に拭っている。

(つづく)

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