第4話

翌日、私は王城から呼び出しを受けた。

もちろんモーリスの件だ。

場内は普段よりも重苦しい空気に包まれており、薄暗く感じる。

衛兵に連れられるままやって来たのは王妃の間。重い扉が開かれると奥に座って待っていたのは部屋の主である王妃様と夫である国王陛下でした。


「本日はお招き頂き光栄でございます、国王陛下、王妃殿下」


光栄と言っていいのかは分かりませんが形式的な挨拶は必要ですからね。

顔を上げると泣きそうな顔をする王妃様と目が合った。その隣には申し訳なさそうにする陛下の姿。


「エリーズ、昨日はうちのバカがごめんなさい!」


駆け寄ってきた王妃様に抱き締められて、ふんわりと優しい匂いが漂う。私用で会う時はこうして抱き締めてのお出迎えが恒例だったのだけど、それも今日で終わりね。

寂しさを覚えながら王妃様の背中に腕を回した。


「王妃様が悪いわけではありません。私にも非はありましたから」


王妃様からそっと離れて、陛下に向かって腰を折る。


「この度は大変申し訳ございませんでした」


本来ならモーリスの暴走を止めるべきでしたが、あまりにも彼が嫌い過ぎて婚約破棄を喜んで受けてしまった。

一晩明けてよく考えてみるともう少しやりようがあったと分かり反省しているのだ。

私の言葉を受けて陛下は首を横に振った。


「エリーズが悪いわけではない。悪いのは愚息モーリスだ」

「しかし…」

「良いんだ。それよりも婚約破棄の件だが」

「はい」


まさか無かった事になったりしないわよね?


「破棄ではなく解消とさせてもらう。君が傷物になる必要はない」


婚約の破棄と解消では大きく違う。

破棄だと次の縁談が来づらいが、解消だと婚約自体がなかった事にされる為、次の縁談も問題なく受けられるのだ。

個人的には嬉しいけど、それで良いのだろうか。


「これはお詫びのようなものだ…」

「謹んでお受け致します」


項垂れる陛下に拒否を示すほど馬鹿じゃない。

頭を下げて婚約の解消を受ける事とした。


「ねぇ、エリーズ。私から一つ提案があるのだけど、良いかしら」


私の隣に座る王妃様から声をかけられた。

なんだろうと首を傾げる。


「貴女が良かったらマケールと婚約しない?」


危うく紅茶を吹き出すところでしたわ。

軽く咽せる私の背中を摩りながら「驚かせちゃった?」と笑う王妃様。

そりゃあ驚きますよ。婚約解消した相手の兄と婚約って、しかも相手は王太子。


「流石にそれは…」


動揺していると部屋の扉が大きく開く。

入ってきたのはマケール様でした。

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