第一章 鹿児島県 『吉凶剣 塹魂枷』
第2話 幸か不幸か 歩こうか
日本をひとつにまとめあげるために障害となりうる、敵対勢力は大きく二ついる。
日本国内にひとつ。
そして、もうひとつ。宇宙からきた侵略者だ。
宇宙からの侵略者は、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人を筆頭に、人の形をしたものから、形をとりとめていないものから有象無象。何らかの組織を成しているらしいが、詳細不明。
侵略された各都道府県は、宇宙の侵略に屈服し、独立の体を取っている自治体もあるらしいが、それは本来の理由とは違う。
実際は『各都道府県の謎の武器』によるものだという。
その武器を所持している者に、『不思議な幸運』のようなものが宿り、自分の発言が通りやすくなるのだという。無理を通すことが可能となる、それは、ありえないとされる、各都道府県が国として独立する、というような絵空事もまた、可能となってしまうのだと。
私はそれをあまり信じていない。
これは、『各都道府県の謎の武器』の所持者の言うことを聞かないと殺されるから。排除されるから。この事実をオブラートに包んだ言葉が伝わっただけだと考えている。
『各都道府県の謎の武器』を『四十七つの大罪』と呼ぶ伝承もあった。まさしくそれは大きな罪の形をした暴力、兵器、『武器』なのである。
「……はぁ」
気が重いが、やるしかない。
宇宙人からの侵略に乗じて、日本からの独立を目論む、もうひとつの敵対勢力を討つ。
私は単身、鹿児島に飛んだ。
相棒がいたのだが、つい先日命を落とした。敵対勢力と戦う相棒は、現地調達といくことにした。ほぼ無名の私に付けられた予算は少ない。旅費を持つのは1人分がベストである。
鹿児島空港に降りる。
なんと、足湯があるという。自然と足がそちらに向かった。
これから命をかけた戦いをしなければならないのだから、頭と身体を休めておくに越したことはないだろう。
私は早速、足湯に腰掛けた。
少し熱いくらいだったが、次第にその温度に慣れてきた。血流が巡る。
あー! なんて極楽!! ……うん。とてもいい心地。
私は頭も考えも巡らせることにした。
『不思議な強運』を持つ所持者と戦闘し、勝利を収めなければならない。敗北は死。しかし、逃げ帰っても死である。
これを『不運』と言わないでなんと言えばいいのだろうか。私には退路が残されていなかった。ならば、考えを曲げずに真っ直ぐに見据えよう。
攻略するのだ。『四十七つの大罪』の所持者を。
雪キツネが用意してくれた情報は、偽情報もあるだろうが、私にとっては絶対だ。送られてきたデータに目を通す。
鹿児島の『四十七つの大罪』の所持者は、日本国内の敵対勢力『
彼は鹿児島県鹿児島市にある仙巌苑を根城にするという。空港からバスに乗って向かうことにした。戦うのはまだにしろ、偵察に行くのは早い方がいい。
彼があの『不詳武将』の一員であることが、私の悩みの種であることは否めない。
「お姉さん」
『不詳武将』とは、廃藩置県を認めず、逆に廃県置藩をモットーとする、時代錯誤も甚だしい、令和の武将だ。日本全国に六十八の支部があるという。
47都道府県を、以前の令制国、その数68に分けたいと主張している。
それぞれ独立しつつある日本全国を四十七にまとめあげなければならないというのに、彼らはさらに六十八に分けようとしているのだ。目の上のたんこぶとはこのことだ。
そんな彼らが所持している『四十七つの大罪』。鹿児島県の武器、『吉凶剣 塹魂枷』。
どのような武器なのかは不明だ。字面で判断するしかないが……、剣なのか枷なのか、判断ができない。
「ちょっと、聞いてます?」
志麻津 義菱は、かつての薩摩藩をおさめた島津 義久の末裔の隣人の親戚だという。島津義久といえば、薩摩だけではなく、大隈、日向も手中に収め、かの佐賀……『肥前さが国』も軍門にくだり、九州のほとんどをおさめていた傑物。情報が本当だとすれば志麻津氏の戦術も戦闘能力も高いはず。
ましてや『伝説の武器』を所持している。一筋縄で済むはずがなかった。
「だめだ、聞いてないね。でもまぁ、ここで会えたってことは、俺にしちゃあツイてる、うん」
「次は稲荷町〜、稲荷町〜」
考え事をしていたら、次は私の目的地「仙巌苑」に近い「稲荷町」というバス停にとまる。ボタンを押そうとしたら、先に他の誰かがボタンを押した。
バスが停る。稲荷町で数人が降りた。
「さっき『不詳武将』を倒すって、言ってたよね」
「は?」
バスから降りると後ろから声をかけられた。
背の高い、若い男性だった。
オレンジ色のワイシャツにカーキ色のワークパンツ。黄色いスニーカー。イヤリングを付けて、とてもチャラチャラとしていた。人の良さそうな笑みを浮かべて言った。
「俺は強いぜ、お姉さん。一緒にあいつらを倒そうよ」
私は、ナンパだと思い、踵を返した。
「あ」
私と不審者の男との間でバスの扉がしまった。
「バスを出発させてもいいですか?」
「はい、降りるところを間違えてしまいました」
「わかりました。席におすわり下さい。出発します」
不審者と目を合わせないように、私は伏し目がちに席に着いた。
「稲荷町」の近くで降りると、またあのようなナンパな輩がうろついているかもしれない。このまま終点の「鹿児島中央駅」で降りて、少し鹿児島観光がてらに歩こうかしら。戦う前に腹ごしらえが必要だし。
鹿児島ラーメンとか。しろくまもいいわよね。
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