悪の華~裂かれた幸せ
ちい。
第1話
私は別に多くのものを求めてなんかいなかった。ただ、冒険者として稼ぎ、それを実家へと仕送りし、両親や妹に、少しでも良い生活を送って貰いたかっただけである。そして、冒険から帰郷した私に愛してやまない妹から「おかえり」の一言が聞けるなら、それで良かったのに。
何故、神はそれを許してくれなかったのだろう。
何故、神は私からそれを奪ってしまわれたのだろう。
何故、神は私たち家族を、姉妹を放っておいてくれなかったのだろう。
血に染った私の両の手は、もう主である神へ祈るために手を合わせることはないだろう。
私には五つ年の離れた妹がいた。名前は
十六の誕生日を迎えた私は冒険者として旅に出始めた。初めて旅に出ようとした私に菖蒲は泣きながらしがみついていた。両親から宥められやっと離れた菖蒲はその後、泣き疲れて寝てしまったらしい。
その後も帰郷しては旅に出るを繰り返した私に、菖蒲は土産話しをねだるようになった。そして、菖蒲は私にこの村での事を一所懸命、話してくれた。
「
「姉さま、今年は稲が豊作でした」
「姉さま、早苗ちゃんが結婚したわ」
「姉さま、今年も里の桜は見事なものでした」
「姉さま」
「姉さま」
「姉さま」
「いつか私も姉さまと旅に出たいわ」
「姉さま」
「姉さま」
「姉さま」
「……コ……コロ……シテ……ネ……エサ……マ……ワタシ……ヲ……コロ……シテ」
それが最後に聞いた菖蒲の言葉。
そして、私は二十歳の年に最愛の妹である菖蒲を失った。
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