日暮

@oorasen

日が沈んだような黒

 おれの名前は大村日暮。「日暮」と書いて「ひぐれ」と読む。


 初対面の人にはよく驚かれる。「え、おおむら‥‥ひぐらし?どっちも名字じゃない?」「名字だけしか書いてないはずないじゃん。多分どっちかが名前だよ」


 言わせてほしい。おれの名字は大村。名前が日暮。「日が暮れる」と書いて「ひぐれ」だ。


 なぜこんなややこしい名前をつけたのか、一度母に聞いてみたことがある。いわく、「日のもとに暮らす。だから日暮。日暮には、いつもあったかい心で、あったかい人たちと、穏やかに、健やかに、ゆったりと生きていってほしいの。お日様の下にいるような、そんなあたたかさを持った人になってほしいんだ。だから、日暮」


 日のもとに暮らす。だから日暮。

 あの時そう言った母のやさしい眼差しが、今でも忘れられない。包み込むようなあたたかさを持った、あのやさしい眼。まるで、太陽みたいな‥‥


 おれを日のもとに導こうとした母は、現在、土の下で眠っている。暗く冷たい、地面の下で。

 

 そして、結局日のもとにたどり着けなかったおれも、日陰のように薄暗い人生を送っている。


 改めて自己紹介をしよう。

 おれの名前は大村日暮。「日が暮れた」と書いて「ひぐれ」と読む。

 歳は16。現在高校2年生の、立派な陰キャだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る