第78話 失われしもの

 オトネの身体が、ガクッと崩れる。


「父さま?母さま?」


 オトネの目に涙が溢れる。


「私は、貴方を許さない」


 オトナがそういってナイフを構える。


「あら?そんなんで私を倒す気?」


 クレイジー・クレイジーが、嬉しそうに笑う。


「倒せる倒さないの問題じゃない。

 倒すのです!」


「ああああああ」


 オトネが声を出して涙を浮かべる。


「オトネ?」


 セロが、オトネの身体を引っ張る。


「ああああああああああああああああああああ!!!」


 オトネの声が響く。

 その声は、大地を震えさせた。


「あらあらあら?目覚めちゃった?」


 クレイジー・クレイジーが、そういうとため息を付いた。


「あああ……あああ……ああああ!!」


「はぁ、目覚める前に殺す予定だったのになぁ」


 クレイジー・クレイジーはニッコリと笑って手を振った。


「ばいばーい」


 そして、姿を消した。


 セロは、オトネの体を抱きしめる。


「大丈夫、もう大丈夫だから」


 セロはなにが大丈夫なのかわからない。

 でも、そういうしかないと思った。


「悪い」


 ジャキがそういってオトネの頭をスリッパで叩いた。


「あああ……ぁぁぁぁ……」


 そして、オトネは意識を失った。


「あ」


 セロがジャキの方を見る。


「意識を奪った」


 ジャキがバツが悪そうにそういった。


「どうして?」


 セロがそういうとジャキがいう。


「そうしないと壊れるぞ?」


「……そっか」


 するとオトナがジャキの方を見る。


「貴方は能力者ですか?」


「ああ。

 記憶操作の能力だ」


「そう……だったらお願いがあるの。

 セロさまとオトネの記憶を操作して」


「え?」


 驚いたのはジャキだけではない。

 セロもだった。


「私の記憶もなくして。

 あとは適当に記憶をいじって」


 オトナがそういうとジャキはなにかを悟った。


「待て!そんなの許さ――」


 ジャキはスリッパでセロの頭を叩いた。

 セロも意識を失う。


「これでいいんだな?」


 ジャキがそういうとオトナがいった。


「ありがとう」


「アンタはどうするんだ?」


「私は、遠く離れた場所からセロさまをお護りします。

 記憶があるままだと暴走して『テオスを倒す!』とか言いかねないから……」


「そうか。

 じゃ、ヒーローを嫌うように記憶操作しようか?」


 ジャキが冗談でそういった。


「それでお願い」


 オトナが笑う。


「え?」


「お願いね」


 オトナは、そういうと姿を消した。


「マジか?」


 ジャキはため息をつきながらふたりの記憶を操作した。

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