第62話 ファンです

「汝、力を求めるか?」


 聞き覚えのある老人の声が優の耳に入る。


「え?」


 優は戸惑う。


「汝、力を求めるか?

 我に従うのなら……

 我が主に力を授ける」


「力を……?」


 老人が答える。


 力……

 優は考える。

 力とはなにか。

 それは授かるものなのか……

 その力を得たらまた暴走しないか。

 不安が溢れる。


「もう一度問う。

 汝、力を求めるか?」


 優は小さく答える。


「いらない。

 力は、自分でつける」


「……」


 老人の気配が消える。

 その瞬間、優の身体が宙を舞う。

 そして落ちる感触。


 ドスン!


 その音とともに身体が地面に叩きつけられる。

 熱い……


「優大丈夫?

 痛いの痛いのとんでけー」


 ピノが優の身体を撫でる。


「大丈夫ですか?」


 田中が心配そうに優のそばにかけよる。


「痛い……だけど大丈夫です」


 優が答える。


「何があったのですか?」


 田中の質問に優が答える。


「お爺さんに力を求めるか尋ねられました」


「え?」


「でも、断りました」


 それを聞いた田中は優の頭をなでる。


「よくできました」


「よくできましたシールいる?」


 ピノもそういってシールを優に貼った。


「どういうことですか?」


「それはフィサフィーの仕業です」


「フィサフィー?」


「貴方が消えてから、現れるまでの時間で得れた情報ではそれに同意した場合。

 燃えます」


「え?」


「何人か亡くなりましたね。

 亡くなったのでその人が同意したかどうかはわかりませんがね。

 燃えた人の生き残りでは、同意しちゃったみたいですね。

 そして、力を得た人は案の定、暴走してますね。

 この間の貴方みたいに……」


 田中の言葉に優が疑問をぶつける。


「僕、消えていたのですか?」


「はい。

 3日行方不明でした。

 ピノは泣いていたのですよ?」


「あ……」


 優がピノの方を見る。


「ピノのこと嫌いになったのかと思ったんだからねー」


 優は、少しだけ心の何かが明るくなった。


「大丈夫だよ。

 僕はピノちゃんのファンだから」


「えへへー」


 ピノが小さく笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る