第61話 選ばれるということ

 ――とある地下室。


「……痛い」


 ひとりの少年がうずくまる。

 少年の名前は、藤村 優。

 優しい子になりますようにと名前をつけられた。

 優の胸をひとりの女の子が触る。


「いたいのいたいのとんでけー」


 そういった女の子の名前は、ピノ。

 年齢は4歳。

 治癒の旋律を奏でる者だ。


「まだ痛みますか?」


 全国ヒーロー協会の田中が心配そうに優にそういった。


「あ、はい」


「でも、その痛みは忘れないでください。

 貴方が傷つけた子たちも同じように痛いのですから」


 田中がそういってメガネをクイッと上にあげた。


「はい」


 優の心の中に罪悪感があった。

 いじめられていたとはいえ傷つけてしまえば同じ穴のムジナ。

 そのときはいい。そのときは達成感。

 でも、後で来るのは後悔と罪悪感。

 元々が優しい子になるように育てられたため、そういうものにも敏感だった。


「貴方は償わなければいけません」


「……はい」


「でも、貴方をイジメていた子たちも償わなければいけません」


「え?」


「だって、貴方を苦しめたのでしょ?

 そのため貴方は暴走した。

 関係ない人を巻き込んでしまいました」


「そうですね。

 関係ない人を傷つけてしまいました。

 それは申し訳ないと思っています。

 怪我人も沢山出してしまいました」


「怪我自体に関しては気にしなくていいです」


「え?」


 田中が小さく笑う。


「怪我はね。

 ピノが治したよー」


 ピノがニッコリと笑う。


「え?」


 優が驚く。


「みんな痛いのとんでけーで、ぽいぽいーだよ。

 だってピノは治癒の旋律者なんだから!」


 ピノがえっへんと胸を張った。


「ピノちゃんはすごいんだね。

 いいな。能力者は……」


「君の能力も立派でしょう?」


「いえ、僕のは多分能力じゃないです」


「そうなのですか?」


 田中が首を傾げる。


「はい。

 何度か言ったと思いますが。

 声が聞こえたんです。

『汝、我ト契約シ力ヲ得ルカ?』って……」


 優の言葉に田中が首を傾げる。


「それは、能力を授ける能力者なのでしょうか?」


「わかりません。

 ただ、それに同意したら力が――」


 優がそこまで言いかけたとき。

 天井が響いた。


「……地震?」


 ピノが首を傾げる。

 田中を天井を見上げる。

 そして、視線を戻す。

 するとそこに優の姿はなかった。

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