第11話 - 智謀のカラス3 -
ツバサとレイは夕方には適当に腹ごしらえを済ませると、初日と同じ寝床に戻り、一夜を明かした。静かな深夜が過ぎ、夜明け前となる。また周囲の鳥が順に活動し始めた。本日も朝は霧だ。
不意に1羽、近くに飛来して来た。2人ともそれを感じとっていたため、眠気から覚醒していく。
「よう、あんたら、元人間なんだってな?」
!
急に話しかけられたことに加え、その内容にも驚いた。昨日、会議を主導し、ミサゴとの戦いも指揮していたリーダー格のカラスだった。
「クロエちゃんから聞いたんですか?」
どこか風格があり、年齢も上を行っているだろう。なんとなく敬語になった。このカラスが人間について知り得るためには、クロエからの情報しかない。ツバサも問いかける。
「いや聞いてはいない。だがやっぱりか。カマをかけた。」
やはりカラスだ。知能が高く油断もスキもない。その特性を如何なく発揮してくる。
「あんたらがここへ来た目的も、クロエで間違いなさそうだな。元人間同士のお友達、って感じには見えなかったが。おっと、クロエが元人間ってのは、本人から聞いてる」
「し、信じるんですか?」
「……。クロエが群れに入ったのは1年前だ。ちょっと長くなるが……」
1年前。やはりツバサやレイが鳥になった時期と同じくらいだ。
「聞きたいです」
ツバサが応じると、リーダーは語り出した。彼の名はこのカラスの群れのリーダーのトシ。トシたちのグループは基本的に自然界で生きるのがモットーだ。そんなグループ理念に共感してクロエは加入した。
トシのグループは、食料を得るために人間のゴミ漁りなどはしない。理由は単純だ。人間が突然対策したらどうすればよいか? それでその餌場ははおしまいになる。
「ダメになったら次々とゴミ出し場を変えて縄張りを争う低レベルな連中もいるが、それじゃジリ貧だ。ぬるま湯に慣れたら、もう自然界じゃ強者に勝てなくなってる。そんな奴らをいくらでも見てきた」
突然の環境の変化が起こっても対応できるように、ある程度、競合のいる地域を選び、格上の猛禽類とも立ち向かい合って、生活する方針にしている。ここはそんな考えに賛同した者どもの集まりだという。グループは来る者も去る者も基本拒まない。
「さすがに繁殖できないツバメやセキレイは入れないがな。」
クロエは初めから知能がケタ違いだった。トシはその知性に驚愕したと言う。カラスでも個々に天才タイプもこれまでにいたが、あんな存在これまでみたことがない。別格だった。
石の数個で水の流れが変えられ、巣作りに適した位置も非常に正確、外敵の嫌がることなど、これまでのトシ達の常識を覆すレベルの行動や提案が多く挙がった。
その中には、既存のカラスには絶対できない発想もあった。例えば物を分け合うこと。現状これが出来る個体は非常に少ない。クロエはこれをすぐにやってのけた。すぐ疑問に思った。まるであの人間のようだと。
好奇心でクロエに生い立ちを聞いたが、彼女はあっさりと答えた。元は人間でその記憶を引き継いでいると。トシが冗談で信じないだろうと思ったんだろう。
「だがそこで笑い捨てるほど俺も愚かじゃないつもりだ。そして、こうしてあんたらが来た。」
「あなたも、すごいですよ。人間でもないのにそこまで分析できるなんて。カラスのリーダーというだけあります」
「ああ、これくらいはな。もともと分析と把握が得意分野なんだ。例えばそこの民家の老人。確実に家から出てくる時間も行く先も分かる。やろうと思えば上からフンもぶつけられる」
「なにそれストーカーじゃん」
「カラスだ。……どうみてもカラスだ」
「……昨日の薬草、キズに効くのを知ってるのは俺たちのグループだけだ。そもそも、物使ったキズの手当てなんて発想すら驚異的だ。あんたら、ここにきてからそれをクロエに聞いたわけじゃない。初めから知ってたな? あれが決定打だ。」
「……私たちは、……人間に戻るための、鳥魂というモノを集めてます。クロエちゃんもそれをもってて、一緒に集めて欲しいと頼んだんです。でもクロエちゃんは今の生活のほうが良いらしくて、人間に戻るのを拒んでいます」
「なるほどな」
▼
「頼みがある」
――?
「クロエを連れてってやってくれ」
!?
「そんな、いいんですか?」
「ああ、良く言うなら、あいつはここで、こんな群れでくすぶってる奴じゃない。そんな気がする。というより俺の勝手な都合だが、……あれだけすごい奴が全国でどれだけ通用するのかみてみたい。すげえ個体ってのは遠くにいてもその噂が入ってくるもんだ」
まるでスポーツの予選で敗退した選手が、勝者に向けるようなセリフだった。
「でも本人にその気がないので……」
「俺のほうで手を打ってみる。あんたらはそれを利用してくれ」
トシは続ける。実を言えば、クロエは最近重要な役目から外していた。悪く言うなら、クロエが加入してから、あまりにも利便性が上がりすぎていた。そして案の定、それに甘んじて、怠ける個体も出てきてしまった。
クロエの能力を妬んでる個体も出てきていた。取り持ちにも苦労している。さきほどまでの話ではないが、このままではグループの弱体化や解散は必至だと感じていたと言う。クロエが群れに居続けることは、明らかに従来のバランスを崩していた。
「あれは……、カラスの力じゃない」
「おっと愚痴になってしまったな。そろそろ会議だ。じゃあな」
「トシさん、ありがとう」
「……。うまくやろうぜ。お互いにな」
トシは飛び去る。
「いくら提案がすごくても、それを採用、実行できるのも能力だからなー。カラスのポテンシャルおそるべしー」
レイが謎の感服をしていた。
▼
前日同様、本日のカラス会議が行われていた。
「……、……、……」
「本日の会議は以上だ。散開。クロエはちょっと残れ」
「?」
次第にカラス集が散開していき、やがてリーダーのトシ、クロエの2羽カラスが残される。
「なに? 今日の割り当てが無いのだけれど個別案件かしら?」
「ああ。そうだ。クロエ、お前は今日で解雇だ。群れを離れろ」
「……は?」
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