鳥さん少女の転生奇
こやまここ
第1話 - プロローグ -
「ツバサさん、俺といきましょう!」
「やあツバサ、僕とこないかい?」
「あ、あの、ツバサさん、自分、今年からなんですけど、が、がんばるので……!」
――ああ、私、なんてモテモテなの。
勘違いでもない、これが現実。次々と降りかかる求愛の口上に感極まり、誰をパートナーに選ぶか悩ましい、そんな至福のひと時をまさに現在進行形で体感する私は――
ただの鳥だった。
――はあ、人間の男の子たちもこのくらい積極的ならどれだけ楽なことか……。
季節は春。南方から渡りを終え、河川敷に飛来したツバメたちの集団は、今まさに巣営を開始しようと、次々とツガイが形成されていく真っただ中であった。
人としての死を終えて1年、謎の天使に転生されられたツバサは当時のことを不意に思い返す。
▼
「ツバサちゃん、がんばって……!」
――お母さん、そんなにつらい顔しないで。
そこにはベッドに寄り添い私の手を握り、懇願する母の姿があった。特定難病により元より寿命はわずか10年余りと、幼少期より医師に宣告されていた。中学生までは比較的健康だったものの、やはり運命には逆らえず。無情にも、しだいに身体が動かなくなっていった。
高校に進学したが、16歳を過ぎたあたりからは、すでに歩行も難しくなり、17歳となった今、まさにもう発声すら困難な状態となっていた。そこには複数のチューブに繋がれ、ただ横たわるのみの自分がいた。
――いままでありがとう。もういいから。
そう伝えられればどれだけ楽だったことか、しかしそれは懸命に世話や延命に注力する父と母の姿によってずっと言葉にはできなかった。
正直延命など、ただ苦しく、つらいだけだ。死に対する恐怖や焦燥感など最初の一時だけだった。肉体の苦痛が増せばそんなものは即刻消え失せ、ただ一つの感情しかなくなる。はやく楽になりたいと。
全く動けなくなる今より、やや遡って数か月前、ベッドから動けない私こと翼は、病室の変わらぬ景色に鬱屈していた。
動くものがあれば自然と視線はそちらに行った。それは窓から見える、鳥の飛翔だけだった。次第に、あれは何の種類だろうと興味を持ち始め、比較的体調の良い日は野鳥の本を読み流していた。
そんな日がしばらくの間だ続いた。そして現在、その本も今は手に取る力はおろか、本の位置まで腕すら移動できない。
そして――
記憶に残る最後の視界は――
窓越しに見た一羽のツバメが青空の中、一直線に飛翔していく姿だった。
▼
「やーやーやー、お目覚めかな?」
突如、おぼろげに意識が戻った翼は、ゆっくりを視界を広げると、そこには何もなく、ただ白い空間が広がっていた。目の前にはどこかおちゃらけた白い羽の生えた、金で長い髪の女性がいた。その風貌はまさに物語に出てくる天使を思わせた。
「え、えぇ? あの……あれ」
翼自身の姿は何もなかった。
「えー、今から、あなたをー、ツバメに転生させますー」
「ええ! ツ、ツバメ? 何でツバメなんですか!? ていうかあなたは?」
突拍子もないことを急に言われ、つい突っ込み口調となる。
「なんで、って魂にそう書いてあるし、そういうお願いしてたんじゃないんですかー?」
天使系の人(?)は考え込むように困惑する。困惑したいのはこちらだというのに。
「いや、その、たしかに、そう、自由でいいなとか、思ったこともありましたけど……!」
「ええと、あなたは『試練』になってますので、途中からやってもらいますねー」
天使系の人の指が、サインのように動き始める。こちらの疑問や混乱の一切をスルーし、なにかを勝手に採決しようとしているのは明らかだった。
「し、試練? 途中? あの! すみません! 人間にしてほしいんですけど!」
何か申さねば何かが決定しまうことを直感し、咄嗟に願望を口にした。それしかなかった。
「あ、はぁい。じゃあ人間で。意思決定が早くてたすかりますー。いやー、ここでグズグズしちゃう人、多いのでー」
――ほっ。とりあえず、よかった?
「それでは、鳥魂を7つ集めてくださいねぇ。集め終えたら呼んでくださいー」
「え!? 鳥魂? なんですか! それ……」
「あなたは初めから1つ持ってますー。あと6つですねぇ。見ようと意識を集中すれば、鳥魂が見えますよー」
集めて、自分の目の前に示してもらえれば大丈夫だと、マイペースに語る。試練が達成されれば人間に戻れる。病気で死ぬ前から人生を再スタートすることが出来、病気も克服され、健康体となれる。しかし、鳥のまま死んでしまえばそこで魂終了ですと続ける。
「もちろんそのまま鳥魂集めをせずに、鳥生をまっとうしていただいてもかまいませーん。それではがんばってくださいー」
「えぇ!? やっぱり鳥なんですか!?」
説明になっていない説明を終えた天使系さんは、スゥっとその場から消失した。
突如、視界が崩れてゆき、辺りは一瞬で開けた緑豊かな自然風景となる。その世界はごく普通の、初見のものなど無い、見たことがあるはずの風景なのに、あらゆるもののオーラが違い圧倒的であった。
「あ、あれ……」
「ん?」
ふと俯き自分の姿を見る。見返す。
「ツ、ツバメになってるーーーーー!!」
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