第22話 暗躍は、洞窟にて
遺跡
観測都市ボハールに生まれ育った、あるいはボハールを訪れた人物にとって、その言葉が意味するものは、一つだ。
『ドーラッシュの集い』の秘密基地の、
百年前の戦いでは、各地から、最強クラスの戦士が集ったという。そして、戦いも最終段階になると、神々までが姿を現し、力を
あくまで、『ドーラッシュの集い』の壊滅は、局地的なものであったが、その戦いが世界規模で起こっていたというのだ。
その再現だけは、避けたい。それほど、世界は『ドーラッシュの集い』を、恐れたのだ。
結果、封印された。
誰も近づかないように、禁じられた力の復活が起こらないようにと、長い、長い、観測の始まり。観測都市ボハールの始まりだった。
今年までは、誰一人として、立ち入ることはなかった。
「探検隊にまぎれて、中を探るんじゃなかったのかよ………やりすぎだ」
「いや、時機を
発掘が解禁されるのは、今年の秋。ひざやひじを守るための、皮製の保護が追加されたロングの上下に身を包んだ、探険家スタイルの面々が、疲れると分かりながらも、不安を口にした。
その季節を待って、遺跡探検のために、人々は集まった。
彼らも、各地から集まったグループの一つ。遺跡に一番乗りをしたい、この日を待っていたというご年配の一団もいる一方、彼らは様々な年齢層だった。
そう、見知らぬ人がいても、おかしくはない。物資が遺跡を囲むように集まっても、見知らぬテントが一つ、二つと増えても不自然を感じない。
そのため、紛れ込むことが出来た。彼らは『ドーラッシュの集い』のメンバーである。しかも、許可を得ないまま、強引に、遺跡にもぐりこんだのだ
入り口がないなら、開ければいいと、強引に――
「でもよ、いきなり、爆発なんて………」
「いや、おかげでトライホーンも手に入れることが出来た。この幸運を喜ぶべきだ」
「
「確かに。我ら『ドーラッシュの集い』の正義を、世界も認めたのであろう」
真っ暗な、湿気と岩と、植物に色々が支配する迷宮を、歩いていた。
一部、宗教的な発言も見受けられるが、生まれ育った土地柄に、新たな思想が混じった結果である。
『ドーラッシュの集い』という。古代に滅びた王国ダーストの継承者が、滅びたはずの技術を復活さえ、世界を再び人間の手に取り戻そうと、集った組織の、生き残り。
トライホーンと言う武装の復活には及んでいないため、思想だけの集団らしい。
自分達が、新たな世界の指導者となる。
今の体制は間違っている、本当の答えが、あるはずだ。
優れた技術力を生み出し、人が世界の支配者であった時代は、確かにあった。古代王国ダーストの時代を、復活させるのだと。
そうした人々の、集まりであった。
きっかけや理想は様々にあれど、彼らはそろって、洞窟の迷宮を散策していた。
「ぐぇ………ぐ………う??」
一人が、縛り首状態になっていた。
理想主義者のワーゲナイ先生だ。
この場にニキーレス君がいれば、大慌てで救おうとして、足にしがみつき、トドメをさしたに違いない。教わったことに忠実な人物は、未知の出来事では、とんでもないことをやらかすものなのだ。
「はぁ………はぁ………げほっ、げほっ――」
助かったようだ。
ワーゲナイの様子を見て、ふと、誰かが心配を思い出した。
この、若き理想主義者ワーゲナイが連れてきた、学生のことだ。
「………あの少年は、うまく同志たちの下へ、届けてくれたでしょうか………」
「信じよう。若くとも、同志になったのだから」
信じよう。
そして、信じるしかない。
すでに、魔人族の殺害と言う事態を引き起こし、荒縄によって、連行されていたとは、知る由もない。まして、あっさりと彼ら『ドーラッシュの集い』を裏切り、情報を魔法使い達に提供していたなどとは。
優等生ニキーレスにとっては、裏切ったという後ろめたさは、存在しない。真に『ドーラッシュの集い』を名乗るべき、ギーネイと言う継承者がいるのだから。
知る由もないワーゲナイ先生は、首をさすりながら、優秀な教え子を自慢に思っていた。
「私の優秀な教え子は、今や立派な同志なのだ。うん、成長を見守るというのは、教師の特権だ………あぁ、ニキーレス君だけは、私を裏切らないだろう」
ニキーレス君はちょうど、ぺらぺらと、ワーゲナイたちと会合を重ねていた倉庫の場所、メンバーの顔や名前をおしゃべりしている頃である。
そうとは知らず、自慢げな理想主義者のワーゲナイに、お前の力ではないだろうという、突っ込みたい顔の面々の距離感が、ちょっと寂しい。
気を取り直すと言うか、自慢話など聞きたくもないと、口を開く。
「では、いこう」
「そうだな、爆破したのだ。すでに遺跡を包囲するため、都市警備本部が大騒ぎの頃だ」
「あるいは、魔法使いどもが、遺跡の周りを警戒しているか………」
「俺たちは、まぁ、非常食があるし………遺跡に眠る力を手に入れれば、敵なしだ」
「そうなれば、ニキーレスくんが、一番危険な役割を担ったということか………」
「………優秀な生徒だ、きっと、大丈夫さ。今頃は街の同志達へと、遺産を手渡しているはずさ」
運動能力に秀でたわけではないと、今更ながらに思い出しながらも、あとには引けないご一同。
信じるという言葉には、偽りがない。明るい未来を信じて、一歩、また一歩と、遺跡の奥へと足を進める。
時に天井を這う植物のツルで首吊り状態になり、時にうごめく色々に足を取られて転び、道の何かに全身を這い回られて、悲鳴を上げる。
道ならぬ、洞窟。
ここが、人類の英知の最後の保存場所として、神々すら恐れさせた場所だとは、とても思えない。
例えるなら、墓地であろうか。
鼻をつくカビのにおいと、冷気と、そして、無機質が延々と続く空間だ。
墓地と言う印象を受けても、またその表現も、間違っていない。ここは、百年前の激戦が行われた
しかし、それは表層の、自然の浸食を受けた区画に限られるという。封印された区画は、なにがあっても破壊されないように、独立した設計なのだと。
古代技術とは、すばらしいものだと感心することで、理解を超えた技術を受け入れた『ドーラッシュの集い』の、今のメンバー達。
目当てのものを、探し当てた。
「あったぞ、『先導者』殿の言われた道だ、地下への階段だ」
「いや、ここも地下だが」
「あっ………地下二階って書いてる………あれ、じゃぁ、一階はどこだ?」
「ともかく、この下に続く道なんだよっ」
なかなか、お疲れのようだ。
普段は
いずれも、洞窟探検隊ではない、特別な訓練を受けていない以上、疲労困憊だった。
とりあえず、先が見えたということで、休憩を入れることが、決定された。
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