第2話『初めての国外旅行』
「すみません、ちょっといいですか?」
「……」
ネコ顔の女性はウォルターの声が聞こえているのに無視しています。
注意を守らずに海賊船に乗り込むわ、注意を守らずに海賊達を皆殺しにするわ、やりたい放題です。
少しは反省してもらう為に、無視する事に決めました。
「あのぉ、聞きたい事があるんですけど……スカンドス王国に行くにはどうしたらいいですか? 船が無いなら、泳いで行こうかと思っているんですけど……」
ウォルターは聞こえていると思って、自分の考えを話し始めました。
流石に直線で行くのは無理だと分かっています。
水中でも呼吸が出来るので眠る事は出来ますが、寝込みを危険な生物に襲われてしまいます。
お金はあるので、船旅は出来ると思いますが、国外旅行もした事がないので、少し心配です。
もしかすると言葉が分からない可能性もあります。色々と考え始めたら、心配ごとは止まりません。
でも、一番の問題はそこではないです。
「ちょっと、ちょっと、ウォルター⁉︎ 落ち着いて! 何でいきなり国外に逃亡しようとしているの⁉︎ 確かに人を助けて、悪い海賊を殺して、殺人罪で捕まったのは納得できないと思うけど、もうちょっと冷静になって考えようよ! 話しなら私が聞いて上げるから!」
今は時期が悪いです。殺人罪で捕まった後に海の先にある国に行けば、もうそれは逃亡しているようにしか見えません。ネコ顔の女性は無視するのをやめて、慌ててウォルターの話を聞く事にしました。
「そのぉ、ここだけの話なんですけど、あの海賊船は母さんを拐った海賊船だったんです。それでカァッとなって、船の中に乗り込んだんですけど、その時に母さんを拐った男の一人に会って話をしたんです……」
ほとんど自白しているようなものですが、この町の人達は口が硬いです。
冒険者ギルドにいる人達は、黙ってウォルターの話を聞き続けました。
例えカァッとなっても、30人以上の海賊を皆殺しにしたら駄目だろうと思いながらも……。
「——つまりはお母さんが生きているかもしれないから探しに行きたいんだね……だったら仕方ないかな」
ネコ顔の女性はどんな理由があったとしても止めるつもりでしたが、母親には勝てません。
どうせ止めても、絶対に行くと分かっているなら、諦めるしかありません。
スカンドス王国への安全な行き方を話す事を決めました。
「スカンドス王国に行くなら、商船に護衛役として乗せてもらえばいいと思うよ。それなら、海賊船を倒しても仕事をしたと言い切れるし、一応は国外に逃げたようには見えないから。それに、もしも駄目だった時は、安心して町に帰って来るんだよ。ウォルターの家はここにあるんだから」
ネコ顔の女性は怪しまれずに国を出る方法を、ウォルターに教えました。
そして、駄目だった時は、いつでも安心して戻れる場所があるとも教えました。
お姉さんのように慕っているネコ顔の女性の優しい言葉に、ウォルターは少しだけ行くのをやめようかと思ってしまいましたが、すぐに思い直しました。
「商船に乗ればいいんですね。ありがとうございます。今、スカンドス王国行きの護衛依頼はあるんですか?」
「あるよ。商船は定期的に港から出ているし、海賊も多いから護衛の仕事は多いよ。それにウォルターのスキルを知っている人なら、護衛を応募してなくても是非とも雇いはずだよ」
「そうなんですね。何とか行けそうな気がして来ました。早速で悪いんですけど、仕事の紹介をお願いします!」
牢から出たばかりですが、ウォルターはやる気に満ち溢れています。
生きているかもしれない母親の手掛かりがあるのに、六日間も何も出来ずに閉じ込められては、もう我慢できません。一刻も早く探しに行きたいようです。
「はいはい。それとスカンドス王国の事はちょっと分かんないから、現地の冒険者ギルドに行って、腕利きの冒険者を雇った方がいいよ。あそこは未だに奴隷の売り買いをやっていて、治安が悪いって聞くから」
「護衛を雇えばいいんですね。分かりました。ちょっと多めにお金を持って行きます」
お金ならあるので、ウォルターは安心していますが、何も分かっていません。
ネコ顔の女性はそんな世間知らずのウォルターに現実というものを教えてあげました。
「そこだよ、そこ! 大金持って、あんまり高価な物をぶら下げていたら、襲ってくださいって言っているようなものなんだから。せめて、護衛が出来るまではリヴァイアサンの服は脱ぐように! それと護衛も強そうな人よりも信用できそうな人にするんだよ。お金と装備盗まれるだけじゃ済まないんだから!」
「あっ、はい……そうします」
ウォルターは基本的にお人好しです。
原因はこの町の住民達が可哀想なウォルターに優しくし過ぎた所為です。世の中、優しい人ばかりではありません。困っている人を助けるフリをして、更に困った状況に追い込む悪い人達も沢山いるんです。
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