第6話『因縁の海賊』
「ウォルター、ちょっと待ちなさい! 渡す物があるから」
「あっ、はい……」
ウォルターが冒険者ギルドから出て行こうとすると、ネコ顔の女性が急いで呼び止めました。
海賊船を探すのを止めるつもりはありません。
むしろ、何の手掛かりも無しに探させるつもりがないだけです。
カウンターの中に急いで入って行くと、剣と服、地図を両手に抱えてやって来ました。
「まったく……本当は子供がやるような仕事じゃないのよ」
大きなテーブルの上に地図を広げながら、ネコ顔の女性は隣に立つウォルターを叱ります。
叱りながらも、封印を解除した古びた剣と仕立て直したリヴァイアサンの服をウォルターに手渡しました。
「すみません。でも、行かないと絶対に後悔するのは分かっているから……お願いします。行かせてください」
「ええ、それはもういいから……誰かウォルターに食事を用意して! 海の中でも食べられるような保存食も用意するのよ! 長期戦になるかもしれないから……何してるの? 早く用意して! 時間がないのよ!」
ネコ顔の女性は建物の外の人集りに向かって言いました。そこに立っているだけなら邪魔にしかなりません。
人集りの半分以上が慌てて走って行きました。どうやら協力するつもりはあるようです。
「いい、ウォルター? 襲われた町はここ。数年前から増加した海賊達は、この国で大量解雇された兵士達がほとんどよ。だから、この国の隣国には行かないと思うの。だから、行くとしたら北上した先にある、この国になるはずよ。この国は奴隷の売り買いが盛んに行われているから、間違いないはずよ」
ネコ顔の女性が地図を指差して、ウォルターに海賊船の予想航路を教えています。
兵士の大量解雇があった国は、ウォルターが住んでいる国の、南東に進んだ隣の隣の国です。
『剣聖』と『賢者』のスキルを持つ兄弟が治めている国です。
ウォルターは、お腹いっぱいになるまで用意された食事を食べると、町の人達と一緒に海岸に向かいました。
ネコ顔の女性が海に飛び込もうするウォルターを呼び止めると、最後の確認をしました。
「分かっていると思うけど、海賊と戦ったら駄目よ。あくまでも追跡を重視して。海賊達は大人数で戦いに慣れているし、素人の子供が勝てるような相手じゃないから」
「分かっています。追跡だけで、船を沈没させるのも駄目なんですよね? 海賊船がどこかの国に上陸したら、その国の兵士に連れ去られた女性達の保護を求める……大丈夫です。行ってきます!」
ウォルターはネコ顔の女性に元気よく答えると、海に飛び込んで、沖に向かって泳いで行きました。
♦︎
——海上を進んでいる海賊船の中。
「おい、アリー! 今度は逃げられるんじゃないぞ! ダッハハハハ!」
「何年前の話をしているんだよ! さっさと見張りに戻れよ!」
「おおっ! 怖え、怖え! 俺もミスしてああはなりたくないぜ!」
大柄の健康そうな若い男が、船倉で椅子に座って見張りをしている、顔色の悪い男を揶揄っています。
顔色の悪い男は持っていた酒瓶を投げつけるフリをして、最近入ったばかりの新入りを船倉から追い出しました。海賊船でも古株の自分が、新入りの若造に揶揄われるのは我慢できないようです。
「チッ、クソガキが! 誰かが昔の事を喋りやがったな! ああっーー、ムカつく!」
「「「きゃああああ‼︎」」」
顔色の悪い男は酒瓶の中身を一気に飲み干すと、空になった酒瓶を壁に思い切り投げつけて粉々にしました。
檻の中に囚われている三人の若い娘達が、大きな音に悲鳴を上げました。その甲高い声が、更に顔色の悪い男のイライラを増幅させて行きました。
「うるせい! 黙ってろ! ブッ殺すぞ!」
顔色の悪い男は娘達に向かって怒鳴りました。
でも、しばらくすると椅子から立ち上がって、フラフラと檻に近づいて行きます。
そして、檻の中の娘達の顔をジロジロと見た後に、一人の娘を指差して、信じられない事を言ってきました。
「おい、そこのお前……服を脱げ。俺が商品になるかチェックしてやる」
「いやぁ……」
「嫌じゃねぇんだよ! やるんだよ! さっさと脱げよ!」
娘が断ると、顔色の悪い男は逆上しました。
そして、持っていた檻の鍵を使って、鍵を外すと檻の中に入って行きました。
「お前達も俺を馬鹿にしているのか? ええっ、おい?」
「いやぁ、助けて、来ないで……」
「こんな場所で酒を飲む事しか出来ねぇと思ってるなら教えてやるよ。俺がどれだけ凄え男かタップリと教えてやるよ!」
三人の娘達は檻の隅まで逃げましたが、檻の外に逃げても、逃げられない事は一緒です。
迫って来る顔色の悪い男の両眼は血走っています。
そして、男の汚らしい手が娘の身体に触れようとした瞬間……ドスッ‼︎
それは床下から突然現れて、男の右足の甲を鋭い切っ先で貫きました。
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