第3話『冒険者ギルド』
「痛たたた! もうちょっと優しく頼むよ!」
「痛いもんは痛いんだよ! 男なら我慢しな!」
町の砂浜に到着したウォルターは、数十人の
小母さんに頭をグルグルと包帯で巻かれている小父さんは、少し大袈裟に痛がっているようです。
見た目と服装が漁師っぽいので、仕事中に頭でも打ったのだろうと、ウォルターは先を急ぐ事にしました。
ウォルターが向かう場所は『冒険者ギルド』です。
冒険者ギルドとは、住民、商人、貴族など……様々な人達からの依頼という名の仕事を受けられる民間施設です。一応はウォルターも登録していますが、簡単に言えば便利屋です。
海に関係した依頼はウォルターの得意分野ですが、海獣と呼ばれる魔物の退治だけは避けています。
海底から拾った骨董品や財宝を売れば、それなりの収入になるからです。
わざわざ危険な依頼をする必要はありませんでした。
ウォルターは町の大通りの中に建っている、木造建ての建物の中に入って行きます。
建物の内装は酒場のような感じで、八人ぐらいが一緒に食事が出来るような大きなテーブルが、規則正しく10個並んでいます。
今の時間帯は忙しくないのか、三人の男達が一つのテーブルに集まって談笑していました。
「すみません、鑑定と埋葬をお願いします」
テーブルの間を抜けて、ウォルターは真っ直ぐにカウンターに向かいました。
そして、赤茶色の髪が肩まで伸びている、白の半袖シャツとジーンズを着た若い女性に声をかけました。
「ああ、ウォルター。こんにちは。今日はどんなガラクタを見せてくれるのかな?」
一枚の依頼書を眺めていた24歳ぐらいのネコ顔の女性が振り返ると、ニタニタと揶揄うように笑って、ウォルターに向かって行きます。
「服と剣です。大型の沈没船から遺体と一緒に回収して来ました。遺体は船長室に一つだけだったので、船と一緒に心中したみたいです」
カウンターの上に剣と縛った服を置くと、出来るだけ簡潔にウォルターは答えました。
「へぇー、つまりは墓場を荒らして、埋葬品を死体ごと盗んで来た訳か……やるねぇ~。お姉さん、感心して涙が止まらないよ」
「そういうのはいいですから」
ネコ顔の女性が目に溜まった涙を拭き取るような仕草をして揶揄うので、ウォルターは早く仕事をして欲しいとお願いしています。
「そうなの? じゃあ、パパッと調べようかな。『鑑定』。ふむふむ……なるほど……」
ネコ顔の女性は右手の手のひらを剣と服を行き来させて、スキル『鑑定』を使って調べています。
【スキル『鑑定LV4』=対象のまあまあの情報を知る事が出来る。】
「こっちの剣は封印されているから、『解除』のスキルを使わないと、これ以上は分からないけど……こっちの服は『リヴァイアサン』の素材で作られているみたい。リヴァイアサンは水龍と呼ばれる魔物で、数も少なくて凄く強いから、年代物で貴重な服は結構な値段になると思うよ。勿体ないから私は売らない方がいいと思うけど……」
ネコ顔の女性は鑑定結果をウォルターに話すと、剣と服を売らない方がいいと
リヴァイアサンは巨大な海蛇のような魔物で、一匹倒せば百人分の服は作れますが、それでも貴重な服です。
カウンターの上に広げられたリヴァイアサンの服は、防水性に優れているようで、まったく濡れていません。
海の中で仕事するウォルターにはピッタリの服です。でも、ウォルターはあまり欲しくないようです。
「貴重な服なんですね。でも、サイズが合わないから着られないし……やっぱり売ります」
「まったく……サイズなら直せばいいんだよ。ついでに剣の封印も解除しておくから、出来たら家に届けに行くからね。それでいいね?」
「じゃあ、そうします」
ネコ顔の女性に説得されると、ウォルターは素直に売るのをやめました。
ウォルターは売れる物は何でも売って、売れない物は欲しい人に上げていました。
探しているのは金銀財宝ではないので、黄金の金貨にも綺麗な宝石にも興味がないのです。
「はぁー、まったく……少しは良い装備を身に付けないと危ないよ。魔物がいる海に身体一つで飛び込むなんて、正気じゃないんだから」
「すみません」
ウォルターは猫顔の女性に謝ると、冒険者ギルドを出て行こうとしました。
でも、ネコ顔の女性の話は、まだ終わっていなかったようです。
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