第二章

第1話『十年後の第三王子』

 オレンジ色の屋根瓦、白い壁、丘の上にある一軒の小さな平家から、一人の青年が出て来ました。

 年齢は十五歳、茶色の髪に茶色の瞳、肌の色は白く、左腰には刀身の短い短剣を一本差しています。


 そんな青年に、階段に座って休んでいた小父さんが声をかけました。


「ウォルター、今日も海に出るのか?」

「おはよう、ベン小父さん。そうだよ。働かないと食えないからね」


 ウォルターと呼ばれた青年は立ち止まると、小父さんに笑って答えました。


「あんまり無理するんじゃねぇぞ。身体を壊したら、それこそ元も子もねぇからな」

「ああ、分かってるよ。じゃあ行って来るよ」

「ああ、気を付けろよ」


 ウォルターは階段に座る小父さんに軽く手を上げて別れを告げると、丘を下って海岸に向かって行きました。


「はぁー……まったく、海の神様も残酷な力を与えるもんだ。行方不明の母親をこんな広い海の中から探させようなんて……もう十年だぞ」


 ウォルターの姿が丘の下に見えなくなると、ベン小父さんはため息を吐いてから、階段から立ち上がりました。

 海の上で漂流していた五歳の子供が、町の漁師の船に助けられてから、早くも十年の月日が経ちました。


 助けられた当初は大人達の隙を見つけては、海に母親を探しに出掛けていた少年も、今は立派な青年に成長しました。それでも、今も昔もやっている事は変わりません。

 成長して落ち着いたように見えても、仕事だと言って、海に出る事を決してやめようとしませんでした。

 ウォルターは十年間も母親を海の底から探し続けていました。


 ♦︎


「待ってて、お母様。今日こそ見つけるからね……」


 海岸に到着したウォルターは、海のどこかにいるはずの母親に向かって、いつものように話しかけていました。

 そして、話し終えると深くゆっくりと呼吸をして、気持ちを落ち着かせていきました。


「よし! 行くぞ!」


 ウォルターはそう言うと、海に向かって、砂浜を走り出しました。

 服は着たまま、靴も履いたまま、持っている道具は背中に背負ってる袋ぐらいです。

 町の人も五歳のウォルターが同じ事をした瞬間に、自殺するのかと思って本気で止めたぐらいです。

 でも、今は町の人間は誰も止めません。止める必要がないからです。


【スキル『泳ぐLV MAX』=思い通りに泳げる。最高時速30キロ。】


【スキル『潜水LV MAX』=思い通りの深さと時間潜れる。水圧耐性+水中呼吸。】


【スキル『海洋探査LV MAX』=直径10キロ範囲内の指定した物を完全探知できる。】


【スキル『航海術LV MAX』=自分の現在地を完全に把握できる。】


 バシャンと水飛沫を上げて、ウォルターは海に飛び込みました。

 水中を鳥のようにスイスイと泳いで、小船を漕いでいた漁師の横をあっという間に通り過ぎて、沖へ沖へと泳いでいきます。


 ウォルターは今、海洋専門のトレジャーハンターとして、海の底に沈んだ物を回収して生計を立てています。

 小さな子供だったウォルターが、スキルを最大限まで使って、母親の捜索と一緒に出来る仕事は、トレジャーハンターしかありませんでした。

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