第7話 とっとと褒めなさい
僕はバックの重さを感じながら、ドアを開けた。
開けた瞬間に広がる光景は、何一つとして変わらないただ日常を切り取っただけかのようなものだった。
ただ一つ、日常ではないと思える点がある。
それは僕の周りが女子で埋め尽くされているということ。
僕が一歩移動すると、女子達も一歩移動する。
そのような感じでまるで一心同体かのように色々な女子達がつきまとってくるのだ。
つい、最近までの僕だったらこんな状況は天地がひっくり返ってもあり得なかった。
でも、僕はある日を境にハーレムになったのだ。
今考えてみると不思議で仕方がなくなってしまう。
何故、僕はこんなことに…
「おはよう九牙くん」
「あぁ…おはよう」
そんな感じの会話が、それぞれ違う女子達と僕の間で何回か繰り返された。
僕は一直線自分の机に向かう。
見たところ、美晴はまだ来ていない。
自分の机についた僕は、早々にバッグを机に置いた。今日はバックが重すぎて肩が痛い。
自分の手で肩を揉んでいると、教室の扉がピシャッッ!という感じで開いた。
「バトミントン全国大会優勝!私たちぃ!」
そう大声で言いながら居子は指を高く掲げた。
その横の幸江は控えめに頷く。
「マジ!?」
男子生徒 A は驚きながら言う。
「本当よ!」
いやいや、凄すぎるだろ。
バトミントンの全国大会優勝なんて常人じゃ普通、取れないはずだ。
そもそも、そんなのプロに進んでもおかしくないくらいの実力者が取るような偉業じゃねえか。
バトミントン知らんけど。
すると、居子と幸江は王者の貫禄を放ちながら、こちらに向かってくる。
僕の周りにいた女子達は陰キャ風紀取り締まりコンビの二人を避けるように道を作った。
そして、ついに僕の目の前まで来た。
何を言い出すのかと思ったら、居子は急に口を開いた。
「私を…」
なんだよ。怖いなぁ…お願いだから、ここでタメを作らないでほしい。
居子は僕をパッと見る。鋭い目つきで-。
「褒めなさいっっっっっ!!」
「へ?」
僕は反射的に頓狂な声を上げた。
「だから…褒めなさいっ!」
おや?褒めなさい?
居子は腰に手をやる。鋭い目つきは今も健在だ。
「ええーと…すごいね」
僕はびっくりしたままの顔で居子にそう言った。
幸江はうんうんと言いながら頷く。
「ほんとぉ!?」
居子は今まで見せたことがないような嬉しそうな顔をして、そう言った。
君が言ったよね?褒めてって。
今日の居子は一段と挙動がおかしいな…
でも、可愛い。
不覚にもドキドキしてしまっている僕がいたというのもまた、事実だ。
きっと僕に褒めて欲しかったのだろう。
「ねーねー私も褒めてよ」
ツインテールの女の子はそう言い出した。
すると、ダムが決壊したかのように次々に360度の女子達から褒めのリクエストがきた。
いや、褒めのリクエストって何だよ。
「お願い褒めて!」
褒めるって、何のどこをどうやって褒めるんだ。
「……君すごいね…なんかすごい」
「きゃーー」
一人の女の子は床に倒れこんだ。
うん、今の会話中身が空っぽだった気がするけれども、どこかキュンとくる要素があったのだろうか。
そんな状況下に困惑していると、またもドアが開く音がした。
なんとなく、そのドアの方に目をやってみた。
すると、目線の先にいたのは教室に入ろうとしている美晴。
軽く女神は越えてくるような可愛さを全身に纏った美晴はまるで、パリコレのショーのように歩いてきた。鮮やかすぎる茶髪は一歩歩くごとに翻るので毎秒ごとに新鮮だ。
僕はこの懐疑的な状況も忘れて、ドアの前にいる美晴に見入ってしまった。
うわぁ…今日も可愛すぎる。
僕の心臓は高まり、高鳴り。
そして雑念は今日もなくなり―。
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