義妹に毒を盛られたので、きちんとお返しをしてあげようと思います

大舟

第1話

 な、何か変だ。ワインを口にしてからというもの、額から滝のように冷や汗が流れ、ワイングラスを持つ手が小刻みに震える。大波のような頭痛が私を襲うが、今は食事中だ。目の前では、夫のユージと義妹のユリが恋人のように会話をしながら食事をしている。こんな所で倒れてしまうわけには…

 しかし内臓を抉られるような腹痛が私を襲い、ついにその場にうずくまってしまう。流石に放って置けなくなったのか、ユージが私に声をかけた。


「なんだなんだ??」


「ぐ、、あ、、」


「…大げさだなあ。体調でも悪いんなら、部屋に戻って寝てなよ」


 喉が焼けてしまいそうなほど熱く、声が出せない。なんとか額を上げ、2人の方に目をやる。ユージは心底面倒くさそうな顔をしていて、あまり関わりたくないと言いたげだ。私はそのまま、ユリの方に目をやった。

 わたしの前で笑顔を見せた事はほとんどなかったあの女が、目を細め、口を開いて笑っている。私を助けるどころか、むしろしてやったりといった表情だ。…間違いない、ワインに毒を入れたのはこの女だろう。自分でやったのか、誰かにやらせたのかまでは分からないけれど…

 そこまで考えた所で、思考が頭痛に押し潰される。もう意識が、途切れてしまいそうだった。私はもう一度、ユリの方に目をやる。彼女は楽しくて仕方がないのか、少し声を出して笑っているようだった。その姿が、私の最後の力を引き出してくれた。こんな所で、死んでなるものか。

 私は持てる力を振り絞って体を起こし、机の上にあった添加用の塩を一気に口に掻き込んだ。反射的に、凄まじい吐気が現出する。私はそれに身を任せ、内臓の全てを体外に放出する気持ちで内容物を吐き出し、同時に毒入りであろうグラスを壁めがけて放り投げ、そのまま気を失った。



 体の感覚が、少しずつ戻って行く。同時に、頭痛や腹痛といった不快感もまた戻って行く。天井を見るに、どうやらここはまだこの世らしい。


「ミラ様!?」


 横になる私のそばから、声が聞こえた。その方に視線を移すと、使用人のメリアの姿があった。


「…メリア?」


「良かった…本当に、良かった…」


 メリアは使用人の中でも随一の人格者で、誠実な女性だ。私を心配して、ずっとそばにいてくれたらしい。私はそのままメリアに、事の詳細を聞いた。

 どうやら私が気を失った時、近くにいた他の使用人が、グラスが派手に割れる音を聞きつけ、駆け付けてくれたらしい。私はそのまま別室に運ばれ、屋敷の専属医師に応急処置をしてもらい、今に至るという話だ。まだまだ体に不快感はあるけれど、命は助かったらしい。


「では私は、先生に報告してきますね」


 メリア微笑みながらそう言い、部屋を後にしていった。本当に天使のようだ。私もあんな女性を目指さないと。

 …けれど、どこか腑に落ちない。思考力が回復してきた所で、私は考えを巡らせる。なぜ私は助かったんだろうか?ユリが本気なら、もっと助かりようのない毒を選ぶはず。殺してしまいたいなら尚更…

 …いや、反対なんじゃないだろうか?私を殺さず、死んでしまいそうなほど苦しい思いをさせるのが目的だったとしたら…

 女の直感が告げる。なんの証拠もないけれど、それなら説明がつく。私が助かったことも、苦しむ私を見てあんなに楽しそうにしていたことも。


「…やってくれたわね…」


 あの時吐き戻していなかったら、今頃どうなっていたことだろう。考えただけでも身震いする。

 その時、ある人物が私の元を訪れた。




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