貴方の秘密が知りたい②




昇降口へと走っていくと丁度靴を履き替えている蒼が見え急ブレーキで止まる。 多少音が出たが、蒼は気付いていないためそのままロッカーの影に隠れて窺った。 

傍から見ればどう考えても不審者だが、この際どうでもいい。 不審者を追うためなのだから自分こそ正義なのである。


「莉子ー!」

「わわッ! しーッ!」


そのようなことを考えている中で違うクラスの友達に声をかけられたため分かりやすく驚いてしまった。


「うん? どうしたの?」

「ちょっと今、尾行中なの!」


小声でそう言う。


「尾行? 誰の?」

「蒼くんだよ」


それを聞いた友達はニヤリと笑った。


「もしかして蒼くんに興味があるとか?」

「いや、そんな・・・。 まぁ、あるっちゃあるけど、恋愛的な意味じゃないよ?」


そう言うと友達は納得したように頷いた。


「まぁ、確かに蒼くんは謎だらけだよね。 もし真相を突き止めたら教えてよ」

「分かった! じゃあ、行ってくる!」


蒼が昇降口を出たところで莉子も後を追いかけた。 下校中の生徒が大量にいる中で、森に隠れる木の葉のように後を付けていくと蒼はコンビニの近くの路地で立ち止まった。


―――そう言えば、今朝捨て猫がそこにいたっけ。

―――すっかり忘れていたけど、拾われては・・・いないよね。

―――ちゃんと段ボールの中にはいるけど、流石に可哀想・・・。


当然蒼は自分にしたように猫を見て見ぬフリをすると思っていた。 だが蒼は辺りをキョロキョロと見渡しながら猫に近付いていく。


―――え、嘘!?

―――優しいところあるじゃん!


意外にも蒼は躊躇わず猫を抱えた。


―――でもこの展開は定番だなぁ。

―――不愛想だったりいつも威張っている人だったり、そういう男子に限って猫好きなんだよね、うんうん。


ただの偏見であるが、昨夜見たドラマもそうだったため莉子の世界では完全にそうなっている。 テレビに思想を支配されてしまった現代っ子なのだ。


―――じゃあ思いやりがないのは学校でだけ?

―――学校でも優しく振りまいていれば絶対にモテるのに。


そう思いながら様子を見ていると、突然蒼は猫の首を掴みひっくり返した。


「うわッ!?」


思わず声が出てしまい慌てて口を塞ぐ。 猫は嫌そうに暴れていた。


―――やっぱり最低な男!

―――今一瞬見直した私が馬鹿だった・・・。


蒼はひっくり返った猫をしばらく見つめた後、猫を元の場所へ戻した。 そして近くのセブンKへと入っていく。


―――流石にコンビニの中までは追えないよね・・・。

―――ここで待っていようかな。


しばらくすると蒼は袋を持って戻ってきた。 袋から猫用の餌を取り出すと袋を開け猫の横にそのまま置く。 猫は嬉しそうに餌に飛び付いていた。


―――餌を買ってきていたの?

―――あれ、やっぱり蒼くんは優しい人?


それだけではなかった。 袋から紙とペンを取り出すと何かを書き始める。


―――何を書いているんだろう?

―――ここからじゃ読めない・・・。


数十秒後、書き終えた蒼は買ってきたテープで段ボールに紙を張り付けた。 そこには『飼い主募集中』と書かれていた。


―――嘘、あれを蒼くんが書いたの?

―――そこまでするなんて相当優しい人じゃん。

―――でもそしたら、さっき猫を乱暴に扱っていたのは何?

―――どうしてそんなに酷いことをした!?


莉子の頭には“?”でいっぱいだった。 スッキリせず何も解決できずじまいで、この尾行はまだまだ続くことになりそうだ。



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