第81話 アフターストーリー3 王の仕事(2)世間話――か・ら・の~?

「ま、おにーさんは戦うと文句なしで歴代でも最強クラスの勇者だけど、それ以外の政治とかは大の苦手なのは昔から有名だったみたいだしね。それで腰痛で動けないのをいいことに追放されちゃったんだもんね」


 アリスベルもその辺りは重々承知しているようで。

 俺が王様の仕事をイマイチこなせていないことについて、普段からあまり強くは言ってこない。

 もちろんそのせいで仕事を溜めすぎてしまい、今日みたいな強制ハンコ押しイベントが発生してしまったわけなんだけど。


 ペラ。

 ペタン。


 ペラ。

 ペタン。


 うん、まだまだ終わる気配はさっぱりないな……。


「ほんと宮廷政治って嫌だよなぁ。そりゃ気の合う仲間とつるんで、それが大きくなって派閥ができるのは仕方ないけどさ。ある程度のところではみんな仲良くやればいいのにな。なんでああも足を引っ張り合うんだろうな」


 俺なんか国を救った勇者だったんだぞ?

 言わば救国の英雄だったんだぞ?

 今改めて思っても、救国の英雄を国外追放するなんて酷すぎないか?


「多分だけど、一度欲望に取りつかれちゃうと、どれだけ偉くなったりステップアップしてももう心が満足できなくなっちゃうんじゃないかな? だってほら、その人はもう上との差しか見えなくなるから」


「上との差しか見えなくなる、か」


「そうなっちゃうと周りの人からどれだけ羨ましがられても、結局一番上まで行かないとその人は満足できなくなっちゃうんだと思うんだよね」


「なるほどな」

 戦士ダグラスもきっと「勇者パーティの1人」じゃあ、もう心を満たせなくなっていたんだろう。

 俺はアリスベルの見立てにしみじみと納得したのだった。


 まぁそれにしたって俺を追放するってのは、どう考えてもやり過ぎだけどな。


 もちろんそのことがあったからこそ、俺はアリスベルと出会えたわけで。

 そしてアリスベルと出会えたからこそ俺の腰も治ったので、過程を全無視した0か1かの究極の結果論としては良かったと言えるんだけれども。

 

 禍福はあざなえる縄の如し。

 人生ってほんと何がどうなるか分からないよな。


「でも今はおにーさんの腰痛も治ったし、フィオナやリヨンさん、ストラスブールさんもいるし。家臣団はおにーさんの熱烈な支持者が母体だし、国民の指示も高いし。前の勇者のお爺さんも隠居していた山から下りてきて、復興作業を手伝ってくれてるんでしょ? きっとなんとかなるよ」


「先代は石切り場で、大根でも切っているかのように軽々と剣で石をカットしてるとか聞いたな……」


「復興には大量に石材が必要だから、超速で切り出してくれるのはすごく助かるよね」


 馬力こそ歴代最強クラスとはいえ、勇者の力をそこまで精密にはコントロールできない俺には、そんな芸当は逆立ちしたって不可能だ。

 間違いなく粉々に粉砕してしまう。


 せっかくだし先代には直接会って手伝ってくれているお礼を言おうと思って、使者を送ったんだけど。

 『お主と会っても復興は進まぬのじゃよ。余計なことは考えずともよいから、代わりに酒だけ送ってくれ』という身も蓋もない手紙が帰ってきた。


「まったくだな。俺は本当に周りの人間に恵まれてる。それになにより今はアリスベルがいるし」


「あたし? あたしはたいしたことはできないよ? ついこの間までただの整体師だったんだし」


「そんなことはない。腰痛を治してくれて今もあれこれサポートしてくれて。本当にありがとうなアリスベル。アリスベルがいなかったら俺は今ここにはいないから」


「おにーさん……」

「アリスベル、愛してるよ。これからもずっと俺の側にいて、ずっと俺を支えてほしい」


「うん、あたしもずっとおにーさんと一緒にいたい」

「アリスベル……」


 すごくいい雰囲気だったので俺はアリスベルを膝の上で抱っこするように抱き寄せると、そのままキスをした。

 机の上にあった大量の書類の山もちょうど全部押し終えたので、タイミングも悪くない。


「んっ……、んんっ……、だめ……こんなところじゃ……♡」


 口ではダメと言いながら抵抗らしい抵抗は見せないアリスベル。

 そんなアリスベルの頭を左手で優しく撫でながら、右手は柔らかくて形のいいお尻に手を伸ばしつつ、俺はアリスベルと舌を絡ませながらキスを続けていく。

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