第37話 勝利の代償
「ま、こんなもんかな」
俺はギガントグリズリーが完全に息絶えて動かなくなったのを確認すると、『破邪の聖剣』を鞘におさめて、ふぅ、っと小さく息をついた。
「勇者様! お見事でした!」
すぐにフィオナの声が聞こえてくる。
途中から騎士団に合流したフィオナは、俺の邪魔をしないようにと今まで静かに戦闘を見守ってくれていたのだった。
さらにはこの部隊の隊長と思われるベテラン騎士が、
「大変見事な戦いぶりに自分も感服いたしました。こたびの勇者様のご助力に心より感謝いたします」
そう言って見事な騎士の礼を向けてくる。
「フィオナもお疲れさま。それと騎士団の皆もお疲れさま」
俺は2人と、仲間の遺体を回収しはじめた生き残った騎士たちにねぎらいの言葉をかけた。
俺は被害状況を確認するためにフィオナを呼び寄せる。
「フィオナ、騎士団の被害はどれくらいだったんだ?」
「現状確認できているだけで半数が命を落としました。怪我をしていない騎士もほぼいません」
「そうか……俺がもう少し早くついていればな」
運ばれていく物言わぬ
勇者として戦う中で、今までも救えなかった命を数多く見てきた。
たとえ無類の強さを誇る勇者であっても、身体は1つしかないし、全ての命を救うことは絶対に不可能だ。
それでも彼らを救いたかったと思ってしまうのは、これは俺の傲慢なのだろうか――。
「勇者様は間違いなく最善を尽くしてくれました。そもそもSSランクの魔獣が4体もいて半数が生き残れたことが奇跡的ですし、不幸中の幸いです。それもこれも全ては勇者様のご助力によるものです。騎士団の一人として、勇者様には感謝してもしきれません」
フィオナが背筋を伸ばして、これまた美しい騎士の礼を見せてくれる。
「そう言ってくれると俺も少し心が軽くなるかな。ま、暗い気持ちでいてもいいことはないか。過去は取り戻せない、切り替えていかないとな。フィオナ、なにか明るい話でもないか?」
俺は暗い雰囲気を吹っ飛ばすように努めて明るく聞いた。
「そうですね……明るい、とは少し違うかもですが。先ほどの戦闘での圧倒的な力には驚かされました。前回見た時よりもはるかに強い力でしたので」
フィオナも俺の意図を察してくれて、暗い雰囲気を全然感じさせないいつも通りの口調で答えてくれる。
「SSランクの魔獣が4体ともなると、俺もちょっと無理しないといけなくてさ。普段は封印されてる本気の本気を出したんだよ」
「なるほど、つまりこの前私が見たのは、あくまで通常戦闘時のフルパワーだったというわけですね」
「そんな感じだな――っとと」
そう答えた俺の身体が、一瞬グラっと揺れた。
倒れそうになったのを、なんとか踏みとどまる。
「勇者様? どうされたのですか? 顔が真っ青ですよ!? まさかどこかお怪我を!?」
フィオナが心配そうに俺の顔をのぞき込んでくる。
「いや怪我はない。たださすがにちょっと疲れただけだ……さっきの戦闘で力を使いすぎた」
言いながら俺は自分の身体が倒れ始めているのを感じていた。
先ほどの戦闘で生命エネルギーを膨大に消費しすぎて、もはや立っていることすらおぼつかなくなったのだ。
ああダメだ、身体が重い、すごく重い。
まったく言うことを聞いてくれない。
指先一本動かせない。
腰も痛い気がするな。
くそっ、派手に動いてぶり返したか。
アリスベルに見てもらわないと。
ああくそ、これは本当にダメだ。
目を開けているのもつらくなってきた。
っていうかこれちょっとヤバい気がするぞ。
久しぶりに全力を出したから。思った以上に体に負担がかかったのかも。
ぐぅっ、身体の感覚が全くない――意識が朦朧と、して……き、た――
生命エネルギーを膨大に喪失してしまった俺は、極度の疲労に包まれていた。
そしてそのまま俺の意識は闇の中へと沈んでいった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます