第33話 急行

 フィオナは少しでも早く仲間のところに向かいたいのか、森の中の街道を軽快に馬車を飛ばして進んでいく。


 森の東端に向かって疾走する馬車に乗ってしばらくすると、俺のスキル『勇者スカウター』が敵味方、複数の気配をとらえた。

 しかしそれは明らかに激しい戦闘中のもので――。


「フィオナ、どうやら騎士団と魔獣の一団が派手に戦闘しているみたいだぞ」


「それは本当ですか?」

 俺の言葉に、フィオナがびっくりしたように聞き返してきた。


「ついさっき俺の勇者スキルが気配をとらえたんだ。騎士団はよく応戦してるけどこの感じだとヤバいな、かなり苦戦してるぞ。死者も出てるし、これじゃそう長くは持たないぞ」


 強い害意を持った強大な魔獣が派手に暴れまわり、周囲に甚大な被害を出しているのが、勇者スキルを通して手に取るように伝わってくる。


「まさかそんな。今回先行して警戒任務に当たっている部隊は、東部管区の特務警護騎士団の中でも精鋭ぞろいです。それが苦戦しているだなんてにわかには信じられません」


「魔獣の数が多い上に強いからな、まだ距離が遠いから正確な強さは判別できないけど、多分SSランクが何体もいるぞ?」


「SSランクの魔獣が何体もですか!? それこそありえませんよ、SSランクといえば魔王の四天王クラスではありませんか。事前の報告でもそこまで強い魔獣がいるとは聞いていませんし」


 たしかにフィオナは道中、確認できているのは通常のギガントグリズリーやグレートタイガー、キングウルフといった全てAランクの魔獣だと言っていた。


「どうもそのありえないことが起こってるみたいだな。ってわけだから俺は今すぐ騎士団の救援に向かう。フィオナはこのまま道なりに馬車で向かってくれ。現地で合流しよう」


 俺は緊急を要する状況だと判断し、単騎先行を提案した。


「かしこまりました。ご武運を」


「ありがとフィオナ。あと急ぐ必要はないからな。フィオナが到着するまでにある程度片づけておくから、安全運転で来てくれ」


 フィオナは何ごとか言いたそうに口を開きかけて、しかしそれら全てをかみ殺して何も言わずに自分の内に飲みこむと、こくんと一度大きく頷いた。


 フィオナはBランクの騎士だ。

 だからSSランクの魔獣が複数いるのなら、申し訳ないけどフィオナ程度が加勢したところで戦況が好転することは万に一つもない。


 極論すれば死体が1つ増えるだけだ。


 フィオナ本人もそのことを理解しているからこそ、何も言わずに頷いたのだろう。

 騎士としての気高い心を持ったフィオナのことだから、本音では自分も一緒に行くと言いたかったはずだ。

 でも敢えてそれを飲み込んだのだ。

 それは勇敢ではないかもしれないが、必ずしも悪いことじゃないと俺は思う。


 命は1つしかない以上、無駄死にはしないに越したことはない。

 命を賭けていいのは、それに値すると自分で納得できた時だけにするべきなんだ。


 そして幸いここには俺が――SSSランクの勇者がいるのだから。

 だからここは俺に任せるのが最良の判断なのだった。


 そういう意味でも、フィオナは危機的な状況下でも正確な状況判断ができる一人前の騎士と言えるだろう。


 まぁ勇者である俺はどんな時でも相手が何であろうと、命を賭けて戦わないといけないんだけどな。

 それが人類最強の戦士たる勇者の責務であり、同時に勇者という最強存在の在り方なのだから。


 ってなわけで。


「最速で助けに行くとするか」


 俺の戦意に反応して勇者スキル『聖なる加護』が発動し、俺の身体にSSSランクの勇者の力がみなぎりはじめる。


 さらに俺は馬車から飛び降りると同時に、勇者スキル『神速』を発動した。


 俺は100メートルを5秒かけずに走る猛ダッシュで一直線に森の中を突っ切って、騎士団と魔獣たちが交戦している戦場へと急行した――!

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