花明かりのティーンエイジャー
彩女莉瑠
★中学生になりました①
まだ朝の寒さが厳しい春に、私は中学生になった。
これから始まる中学生活に思いをはせながら、なんだか改まった気持ちで小学校とは違う大きな校門をくぐる。小学校とは違って校庭に遊具の姿は見られない。広く大きなグラウンドを眺めていると、遠くから声をかけられた。
「
「あ、
私に駆け寄ってくれた彼女の名前は
真っ黒でツヤツヤしたショートボブヘアーの凛ちゃんは、
「由菜、クラス発表見た?なんと、私たちやっと同じクラスになれたんだよ」
「ホント?」
凛ちゃんからもたらされた思わぬ報告に私は急いで配られていたプリントのクラス発表の欄に目を通す。
そこには間違いなく、私の名前と凛ちゃんの名前が同じクラスの欄に載っているのだった。
「本当だ!やったね、凛ちゃん」
「うん!知ってる人が誰もいなかったらどうしようって不安だったから、嬉しい」
凛ちゃんの弾んだ声を聞いて、私も嬉しくなる。
キーンコーンカーンコーン
私がクラス発表を確認した後すぐに、学校のチャイムが鳴る。私と凛ちゃんは急いで教室へと駆け込むのだった。
真新しい制服に身を包み、少しぎこちない動きをしているクラスメイトたちからは、緊張が伝わってくる。それは私も同じで、ドキドキしながら自分の席を探す。
見つけた。
私と凛ちゃんの席は少し離れていたが視界に凛ちゃんの姿が入るので、私の緊張をそれだけで少しほぐしてくれた。
席に座ってしばらく待っていると教室の扉が開く。クラスの視線が一斉に教室のドアへと向き、そこに現れた人物を目で追っていく。
「皆さん、はじめまして。おはようございます」
先生の挨拶に緊張がピークに達した私たちは硬直して声も出せない。
「どうしたんですか?元気がないですね。皆さん、おはようございます」
「お、おはよう……」
「ダメです。大きな声で挨拶をしましょう。小学校で習わなかったんですか?」
先生の低く落ち着いた声に、クラスメイトたちが顔を見合わせる。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます!」
「よろしい」
大きな声で挨拶を返したことにより、先生の顔がほころんだ。私はそんな先生の姿をじっと見つめている。先生は黒板に『遠山広美』と書いていた。
「私は
遠山先生は
「さて、皆さん。これから入学式が体育館で行われます。廊下に出席番号順に並んでください」
先生の言葉に私たちはおずおずと席を立ち、廊下へと足を向ける。大体同じくらいの背丈の生徒たちが、男子と女子、1列ずつで出席番号順に並ぶ。
「体育館に移動します。前の人について行って下さい」
遠山先生の言葉に、私は再び緊張してしまう。これからいよいよ入学式が始まり、私は正真正銘の中学生になるのだ。
体育館に一歩足を踏み入れる。一斉に保護者席の保護者と在校生の先輩たちがこちらを見た気がした。緊張して顔が上げられない。バクバクとうるさく鳴る心臓を
「在校生、起立」
新入生が全員体育館に揃ったのだろう、ざわざわとしていた体育館に先生の声が響く。それが合図となり、今までざわついていた空間にピリッとした空気が張り詰める。
「ただいまより、入学式を始めます」
いよいよだ。
私はしっかり前を向いて誰も立っていない壇上を見つめる。
式は問題なく進んでいく。校長先生が壇上へと上がり、私たち新入生を優しく歓迎してくれた。そして、
「これで、入学式を終わります。続きまして、始業式を始めます」
無事に入学式が終了したのだった。
続いて始まった始業式では、在校生である先輩方への校長先生の挨拶を始め、新しい学年の過ごし方、注意事項などが次々と説明されていく。
「あ~、ダルかった……」
式が終わって教室へと戻る途中の廊下でそんなことを凛ちゃんが呟く。
「そう?私は身が引き締まる思いだったよ」
私の返答に、凛ちゃんは「由菜は相変わらず真面目だねぇ」と返してくれる。
「それよりさ、由菜はもう部活何に入るか決めた?」
「部活かぁ~。オーケストラ部にしようかなって思ってるんだけど……。凛ちゃんは?」
私の問いかけに、凛ちゃんはフリフリと右手を振りながら、
「オーケストラはパス。だってここのオーケストラ部って厳しいって有名だもん。私はどっか緩い部活を探すよ」
そんな話をしているとあっという間に教室へ着く。凛ちゃんはまたね、と言って自分の席へと戻っていった。
私も自分の席へと着く。そして生徒たちが全員席についたのを見届けた遠山先生が壇上で私たちを見回した。
「え~、これから君たちはこの学校の生徒として生活を送っていくわけですが……」
先生はそこで一度言葉を切る。クラスメイトたち全員が、先生の次の言葉を待っている。
「とりあえず、元気に過ごしてください」
先生はそう言うと、では、教科書を配ります、と言い先頭の生徒にその列の分の教科書を渡し始めた。
「ページの抜けや
教科書を受け取った私は、その分厚さに驚いてしまう。小学生の頃とは比べ物にならない分厚い教科書。これが、中学生なのか。改めて自分が今日から小学校とは違う世界に来たのだと意識させられる。
全ての教科書を受け取った私は、その重さに驚く。これを毎日持ってこれから学校に通うことになるのだ。
「では、明日からよろしくお願いしますね、皆さん」
先生のこの言葉で、私たちの入学式は終わった。私は教室の後ろにずっと立っていたお母さんの元へと急ぐ。
「お、重い……」
教科書で重くなったカバンを肩にかけ、お母さんにそう言う。お母さんはふふっと笑うと私のカバンを持ってくれた。
「凛ちゃんと同じクラスになれて良かったわね」
お母さんにそう言われ、私の頬は自然とほころんだ。
「由菜!また明日ね!」
帰り際の教室で凛ちゃんが私に挨拶をしてくる。私もまた明日、と返すと凛ちゃんは教室を出ていくのだった。
「じゃあ、帰りましょうか、由菜」
「あれ?お兄ちゃんは?」
「
さぁ、帰りましょう、と言うお母さんに促され、私はこれから過ごす教室を後にするのだった。
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