Death×By×Familia

宮園クラン

出立編

第1話【eleven years later-ジョウキョウサイカイ-】(1)

 良い事は滅多に起きない反面、悪い事に限っては同時に並行して多発するのはどうしてなのだろう。



 誰しもが生きていく上で少なからず一度以上は経験するであろう理不尽な出来事に遭遇した――(推定)18歳の誕生日を間際に控えた綺羅星きらぼしねねは、かような考えに至っていた。



 連日連夜の興業を不可なく消化し、休みを挟まない13連続日というハードワークをようやく終えたと思った矢先に、である。




 彼女は誰に聞かせるまでも無く「あー。うん、そうね」という独り言を無意識に吐き出し、自室ドアを後ろ手に閉め錠を下ろし、煙草とライターを探すべくミドルチェスト内をがさごそと物色し始めた。




 戸籍上の記録では現在17歳(ということになっている)ものの、実際の誕生日が何年何月何日だか自分自身では把握していなかったし、それを正としたところで成人に達するにはプラスであと2年程足りていないのはさておき、彼女は“20歳未満の喫煙は禁止する”という国内における法令を全面的に無視するかたちにて、取り出した一本を口に咥えて火を灯したのだった。



 先端をチリチリと炙りながら、軽く息を吸い込み、そして吐き出す。



 ヘビースモーカーとまではいくまいが、仕事終わりの一服は格別だなぁと改めてねねは思い知ったのであった。



(煙草が健康に悪いんじゃあない、健康が煙草に悪いの間違いだろうさ)



 ……などと心中で毒づきながら。



 そんな整合性の無い個人の見解は実際の所然程重要ではなく、ねねは紫煙を良い塩梅でもって肺に満たしつつ吐き出しつつしながら、取り急ぎこれからどうするべきかを思案する。



 正直な話、確たる根拠は持ち合わせずとも、そもそもが嫌な予感というか予兆は、あったのではないだろうかと。



 具体的には本日早朝、本番開演前の朝食時にまで時は遡る。



 入団時より愛用している彼女専用の茶碗が、触れた瞬間に粉々に砕け散るという凶事に見舞われたのである。



 何処かで誰もが一度は目にしたことがある「何か悪い事が起きるのではないだろうか」などという注意喚起を示す事案だとしても、アレはやりすぎではないのかと当事者たるねねは感じていた。



 見えないハンマーで叩き割られたかのような破裂音の後、破片が突き刺さった所為で彼女は右手の甲を負傷している。



 大事には至らず、本番のジャグリングにおいても支障はきたさなかったのは結果論でしかない不幸中の幸いだったとしても(とはいえ包帯を巻くこともはばかられたので一旦はワセリンとボディペイントにて誤魔化した)、事が起こった際にはある種の襲撃ではないのだろうかと警戒せざるを得なかった。



 だもんで、若干の時間差が生じたこの日この時、興業を終えた後に待っている束の間の休日に対する心積もりへと移行しつつあった今にしてのは、もはや不可避の運命に違いないのだろうと、ある種の諦観に満たされてしまうのも、やぶさかでないのだろう。




『忌む魔術師たる貴方へ』

『引導を渡すべく御座候』

『主演場まで御出で為されよ』




 ベッドの枕元に置かれた手紙と、その下床一面に広がる有り様を見て、彼女は。



 やれやれと嘆息しながら、これより先の身の振り方を気怠げに考えるのであった。

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