第95章 レーダー基地防衛

ユーリの言葉を聞いたルニャは1人監視塔に残り母なる祖国の美しい夕焼けを見ていた。





「同志に似ているか・・・」





純粋な愛国心を持っているユーリは同じく愛国心の塊の様なルニャを気にかけていた。



そして実力も確かだった。



ユーリは自分が白陸との戦いで命を落とした後にも同志には生きていてほしかった。



誰かが生き残り次の赤軍を残さなくてはならない。



ルニャはまだ階級も低く、成長するにはまだこれからだ。






「私なんかが・・・ユーリ同志の後継者なんて無理だよ・・・」






監視塔の上でそうつぶやいていると下からルニャを呼ぶザカエフの声が聞こえた。



急いで降りて敬礼をするとザカエフは「命令が下った」と真剣な表情で話していた。



白陸軍は陸、海、空軍の全ての戦力において圧倒的に勝っている。



だが何よりも食い止めなくてはならないのは空軍の出撃だった。



白陸の宰相春花の戦闘機が飛来すればたちまち陸戦隊は焼き払われる。




「我々はレーダー基地の防衛に入る。」

「味方の空軍のためにもですか?」

「良くわかっているな。 敵の空軍を倒すためにもレーダーで接近を知る必要がある。」





そのためには何が何でも守らなくてはならなかった。



重要拠点の防衛のためにユーリ直轄の部隊が派遣される事になった。



ルニャは身が引き締まる思いで防衛に臨んだ。



レーダー基地に到着すると広大な敷地を500名のユーリ本隊の兵士が防衛した。



ルニャも周囲を歩き回って敵が来ていないか警戒していた。





「それにしても。 こんな奥深くまで敵が来るかな。」





旧ローズベリー領の真ん中にあった。



その辺りにはまだ赤軍が大勢残っていた。



万が一に敵が来る事があれば気が付かないはずもなかった。



ルニャは本当に敵が来るのか半信半疑で警戒をしていた。



隣にはまだ男の肌も知らないであろう若い女性兵士を連れている。





「ミューニャ大丈夫か?」

「はい軍曹殿。」

「お前はいくつだ?」

「14歳であります。」





中学生ほどの年齢であるミューニャ二等兵は危険を承知で祖国のために兵士になった。



ルニャは胸が痛かった。



こんな若者に戦わせるなんて。



そう思っているルニャもまだ20代という若さだった。



天上界に来てから止まっている年齢。



精神的には2人とも少しは大人になったとしてもあどけない表情などは変わらなかった。





「周囲を警戒して何か怪しいと思ったら調べに行くぞ。」

「はい軍曹殿。 我々は勝ちますよね?」





瞳を輝かせて話しているミューニャに返す言葉がなかった。



「負けるであろうな」とはとても言えなかった。



赤軍は北側領土で発展して、周囲の帝国にだって勝ってきた。



だが今回相手にしている白陸という国は北側領土のどの敵よりも強大で豊富な戦力を保有している。



それどころか、指揮官である宰相の能力の高さもまるでユーリが何人もいるかの様だった。



警戒を続けるルニャとミューニャ二等兵はこれから訪れる惨劇をまだ知らなかった。



警戒を続けて歩いていくと微かな異変に気がついた。




「ん? 歩哨の同志はどうした?」

「別の所を探索しているのでは?」

「いいやおかしいぞ。」





ルニャは微かな異変に気がついた。



味方の歩哨がいない事に。



だがミューニャの言う通り別の場所へ歩いていったのかもしれない。



しかしルニャは見逃さなかった。






「だとしたら遠くに同志の姿があってもいいだろう。 後ろを見てみろ。」






ミューニャが振り返ると遠くで歩く2人の同志が見えた。



前方を見てみると確かに同志の姿はなかった。



眉をひそめたその時だった。



突然警報が鳴り響いた。





「敵か!!」



ルニャは急いで部隊へと戻るとそこには頭部を撃ち抜かれて死んでいる同志が無数に転がっていた。



驚き、青ざめているとザカエフが叫んでいた。



「頭を出すんじゃない!!」と叫んだ次の瞬間にはザカエフは崩れ落ちる様に倒れると動かなくなった。






「狙撃兵だ!! かなり腕がいい。」

「ど、どうしますか!!」

「とにかく今は動くな!!」






下手に動くと頭を撃ち抜かれてしまう。



物陰に隠れて動かなくなったザカエフの亡骸を見つめていた。



ルニャは考えていた。






(この狙撃の精度。 一般兵にここまでの技術があるのか・・・接近にも気が付かなかった。 ユーリ同志の様な特殊部隊か。)





ザカエフが撃ち抜かれた時も発砲音すら聞こえなかった。



どれだけ遠くから撃っているのか。



姿すら見えない敵に対してルニャ達は既に狙われていた。



動けば間違いなく死ぬ。



そんな恐怖に耐えられなくなったミューニャが冷静さを失っていく。






「怖い怖い怖い怖い・・・」

「落ち着け二等兵!」

「敵はどこですか軍曹!! 探してきます!!」

「ダメだ!! 絶対に動くな!!」





今にも立ち上がりそうなミューニャを必死に落ち着かせるがルニャも恐怖心と戦っていた。



上官であるザカエフは目の前で死んでいる。



怖くないはずがなかった。






「ユーリ同志・・・もしかしたらお約束は守れないかもしれません・・・」






そして懐に入っているジャガーのお守りを取り出すとギュッと握りしめた。



どこの誰がこのお守りを作ったのかは知らないが、持っているだけで気持ちが落ち着いてきた。



すると冷静さを取り戻したのか、割れた窓ガラスの破片に気がついたルニャは反射して撃っている敵がいないか見ていた。





「岩陰の辺りか。」





岩陰の上で伏せている様にも見えたが岩が尖っていると言えばそうにも見えた。



しばらくガラスを見ているとルニャはとてつもない視線を感じていた。



「見られている」と小声でつぶやいたルニャはガラスから見ているのは自分ではなく、敵の狙撃兵だという事に気がついた。



それを証明するかの様にガラス付近に「見ているぞ」と言わんばかりに銃弾が飛んできた。





「連中舐めやがって。」





ザカエフの頭部をいとも簡単に撃ち抜いた敵兵が無駄に撃ってくるはずがない。



ルニャが感じた通り敵の狙撃兵は見ているぞと言っているのだ。



すると恐怖心から怒りに変わっていった。





「狩りでも楽しんでいるつもりか。」





意を決して飛び出そうとしたその時だった。




周囲は白煙に包まれた。



視界を遮られたルニャはその状況を逆手に取ってミューニャ二等兵を連れてその場から動いた。



すると英語を激しい口調で話しながら近づいてくる声が聞こえた。



とっさに銃剣を構えたルニャは白煙の中を見ていた。





「敵が来る。」

「西側の言葉ですね。」





だが次の瞬間にはルニャとミューニャは腹部と肩に被弾してその場に倒れた。



激痛の中で2人が見た光景は大きな体をした黒ずくめの兵士3人が同志の戦車に登っていく姿だった。



朦朧とする意識の中でルニャは懸命に腰に装備している拳銃を取り出そうとしていた。



ミューニャは激痛のあまり気絶しているのかぐったりして動かない。






「せめて1人だけでも・・・」





なんとか拳銃を取り出したルニャは黒ずくめの兵士に向かって構えた。



だが兵士は直ぐに気づいて数発撃ってくるとルニャの意識は完全に飛んでしまった。



そして数時間後。





「生きているぞ!」

「う、うう・・・」





ルニャは生きていた。



衛生兵に手当をされるが何が起きたのかわからなかった。



「大丈夫か?」と衛生兵に尋ねられるが返答ができなかった。



振り絞る様な声で「ここは?」と話した。






「レーダー基地がなくなっているか?」

「え、ええ・・・」

「破壊されたよ・・・基地の爆発や攻撃で100名以上もの同志が戦死したよ・・・」






そびえ立つ様に建っていたレーダー基地の姿はなくなり、燃え盛る炎が漂っていた。



ルニャは衛生兵から聞かされた事実を耳にすると衝撃のあまりに気を失った。



そして病院に運ばれたルニャはしばらくして意識を取り戻した。



看護婦が心配そうに見ていた。






「また会いましたね。」





以前運ばれてきた時に面倒を見てくれた看護婦が立っていた。



ルニャの体には点滴が刺されていた。



看護婦は「死んでない方が不思議ですよ」と少し青ざめた表情をしていた。



隣を見ると眠っているミューニャ二等兵がいた。



「彼女は無事ですよ」と看護婦が話すと安堵した表情で天井を見つめていた。



するとはっと自分の服を探し始めると看護婦が「衣服は破棄しましたよ」と話していた。





「私の持ち物は!?」

「特にありませんでしたよ。」

「ジャガーのお守りがあっただろ。」

「いいえ。 軍服は血だらけで穴だらけでした。 落としてしまったのかも。」





愕然となったルニャはただ天井を見ていた。



だが顔が濡れていく事に気がついた。



「え」と顔を触ると涙が溢れていた。



自覚はしていなかったが体が泣いていた。





「そっか。 悔しいよな・・・同志達が大勢・・・お守りも・・・」





体の傷はこのまま安静にしていれば回復する。



だが心の傷は開いていく一方だった。

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