第22章 赤き王

北側領土の主力。



スタシア王国の国境。




「止まれー何者だ?」

「変化。 白陸の鞍馬だ。 アルデンに会いにきた。」

「鞍馬様! ツンドラの一件以来ですね。 どうぞどうぞ! ようこそスタシアへ!」




かつてニキータの兄との内戦で共に戦ったスタシア兵。



虎白が来ると笑顔で門を開ける。



この辺りはかつてツンドラ領であった。




「建物とかも増えてて綺麗になってるー!!!」

「前は農地と小さな民家ばかりだったのにな。 短期間で良く統治してるな。」




ツンドラ領時代とは見違えるほど豊かになっている。



道端には綺麗な花がたくさん咲いている。



麗しきスタシア王国。



国民の表情もとても明るい。



虎白は安堵した表情でスタシアの王都を目指す。








王都。







高い建造物もあり人々で溢れている。



酒場や市場が立ち並び活気に満ちている素晴らしい王都。





「鞍馬様!? ご無沙汰していますね。」

「リヒト将軍だったか?」

「ええ。 あの節は本当にお世話になりました。 おかげでスタシアもご覧の通りですよ!」

「世話になったのはこっちだ。 アルデンに会いたいんだが案内してくれるか?」





薄紫の髪の毛がなびく。



リヒト将軍は顔を強張らせて虎白を見る。



虎白は首をかしげる。





「実は王様は現在出征しています。」

「戦っているのか? 何だ? 内乱か?」

「ええ。 半獣族が頻繁に反乱を起こすので。」





虎白はニキータを見る。



ニキータは歯茎を見せて険しい表情をしている。





「リヒト将軍! 反乱を指揮しているのって。」

「ええ。 ツンドラの残党です。」




虎白は肩を落とした。



ツンドラ帝国が滅亡する時にせめてもの慈悲で親ツンドラ派の勢力を逃がして「カール公国」という国を建国した。




しかしカール公国はアルデンに従う事はなく頻繁に反乱を起こしてはアルデンを苦しめていた。





「これは俺の責任でもあるな。 アルデンに協力する。 リヒト将軍案内してくれ。」

「わかりました。 おい! 馬を連れて来い!」




白い馬の半獣族が3頭走ってきて虎白の前で止まる。




「鞍馬様。 近衛兵が乗る馬です。 スタシアでも連中より速い馬はいません。 ここから西へ進めば王様の野営があります! お気をつけて!」

「ニキータ、ドルト行くぞ!」

「おいおい待ってくれよー仲間探しにきたんだろ? 内乱の手助けなんて聞いてねーぞ。」

「うるせえバカ犬黙ってついて来い! お前らが軍団を持てるかは俺とアルデンにかかってるんだよ!」





ドルトは不満そうに馬にまたがり西を目指す。














西へしばらく走ると赤い旗が見えてくる。



赤旗に金色の剣が交差している旗印。



スタシア王国軍の旗印だ。




「王様!! 騎兵3騎迫ってきます!」




スタシア軍が弓を構える。




「待ってください! 弓を下ろしてください!」

「撃つな鞍馬だ。」

「虎白殿。 こんな所で一体何を?」




虎白は馬から降りてアルデンと握手をする。



そして再会を喜ぶよりも早く要件を伝える。




「協力する。 王都でリヒト将軍と話した。」

「そうでしたか。 申し訳ありません。 虎白殿に任された領土。 未だに不安定で。」

「何言ってるんだよ。 元ツンドラ領を見てきたが素晴らしかったぞ。」

「あの辺りは妹が治めています。 私はこのカール公国の反乱に手一杯で。」





虎白はアルデンに妹がいた事に驚きながらも話を続ける。





「武力衝突は避けられないか?」

「ええ。 一応模擬演習用の武器で攻撃してますが勢いは凄まじいですね。 我が騎士にも負傷者が。」




アルデンはカール公国に何度も平和的解決を求めた。



しかし彼らが忠誠を誓った皇帝を殺された恨みは相当のもので交渉の余地はなかった。



虎白は黙って考え込む。



そしてアルデンの顔を見る。



赤い髪と白い髪が風になびく。



お互いで何かわかったかの様に武器を抜く。



太陽の光で美しく輝く互いの武器を一度合わせる。





「アルデン俺は内部だ。」

「では外からはお任せを。」





一体何があったのか。



ニキータやアルデンの側近にはわからなかった。



しかし虎白とアルデンには何かわかり合った様だ。




「ニキータ行くぞ。」

「え、ええ!? ちょっと待ってよおー何がどうなったのー?」

「カール公国を弱体化させるんだ。 んでもってカール公国から兵士を貰うぞ。」




詳しくは虎白は話さなかった。



虎白はアルデンの野営地から出ると背の高い草の中に身を隠す。





「とにかく説明だけしてよー!!」

「今からアルデンが総攻撃を仕掛けるから俺達はその混乱の中でカール公国の内部に入り込む。 そこでカール公国を離脱して白陸に加わる者を探すんだ。 それをお前がやるんだ!」




虎白の顔はいつになく鋭かった。



絶対に成功させろと目で言っていた。




「スタシアに栄光あれー!!!」

『おおおおおおおおおおー!!!』




スタシア王国軍が一斉に突撃を開始した。



迎撃の弓が飛んでくるが盾を構えて果敢にカール公国の城門まで進む。



破城槌で城門を破壊する。



そして一気に流れ込み乱戦を始めるスタシア軍。



虎白達はスタシア兵に混じって城の中に入る。




「よし上手い事侵入できたな。 いいかニキータ。 お前が成功させないとスタシアの陽動作戦も無駄になるからな。」

「ニキちゃんにプレッシャーかけないでー!」

「絶対に成功させろ!」




ニキータはその場をウロウロとして頭を抱える。



虎白はニキータが自分で動き出すまで待っている。



見かねたドルトが近寄ろうとする。



しかし虎白がドルトの腕を掴んで首を振る。




「あいつのためにならない。 同胞も説得できないやつが半獣族を束ねる事なんてできない。」




ドルトも険しい顔をしてニキータを見守る。



何か心が決まったのかニキータは小屋の屋根に登る。




「すうー。 皆さーん!! ニキちゃんですー! 迎えにきましたよー!!」

「見ろ第二皇女様だー!!」




突然現れたニキータにカール兵は困惑する。



するとスタシア軍の猛攻がピタリと止む。



ニキータを見ろとカール兵に言わんばかりに動かないスタシア軍。




「皆さんが自由のために戦っているのはわかりますー!! でもこのスタシアの王様は皆さんに酷い事はしませんー!! それでも不安でもしどこかへ行きたいならニキちゃんとお姉ちゃんが暮らす白陸に来ませんかー?」




誰にも分隔たりのない皇女姉妹で有名だったメルキータとニキータ。



カール公国の軍もツンドラ同様で農民兵ばかりだった。




「農民の皆さんが武器を取って戦うのはやめましょうー!! 白陸でニキちゃんは半獣族のみの軍団を作りたいんですー!! なのでどうか白陸に来てくださいー農民は仕事に集中できますー兵士は兵士だけになれますー! お願いしまーす!!!」




顔を真っ赤にしてニキータは必死にカール兵達に叫ぶ。



虎白は少し口角をあげる。




「メルキータの100倍説得力あるな。」




あまりに突然の誘いに動揺が隠せないカール兵。



するとスタシア軍が一斉に武器を構える。




「スタシア王のアルデンだ! あなた達に酷い事はしない! しかしかつての偉大な皇女様が諸君らを呼んでいる。 白陸に行って新たな生活を始めてはどうか? カール公国に残るなら丁重に扱う。 どちらへ行こうともあなた達が苦しむ事はない! しかしこれ以上反乱を続けるなら愛するスタシアの民のためにあなた達を倒さなくてはならない!」




アルデンが赤い髪をなびかせて叫ぶ。



その声が途切れるとスタシア軍はズリズリとカール兵に迫る。



早く決めろ。



そう言わんばかりに。




「き、決めた! 俺は白陸に行くっ!」

「ちょっと待てよ俺達を見捨てた皇女だぞ!」

「ノバの圧政を再現する様なカール公国にはいたくない! スタシアとも戦いたくない!」




カール兵が混乱し始める。



確実に迫って来るスタシア軍を見て怯える。




「武器を捨てろ!!!」

「ひっ! さ、さあ早くニキータ様の元へ行こう!」

「俺は断る! 仕方ねえ。 スタシア軍と戦うしかないな。」




カール兵の意見は分かれた。



武器を捨ててスタシア軍に降伏する者。



その場に残り武器を構える者。



ニキータは速やかに動く。




「ありがとうー!!! はいみんなこっちこっちー!! ニキちゃんの所へ集まれー!!」




スタシア軍を避けてニキータの元へ走る。




「武器を捨てない者だけを倒してください!!」

「おおおおおおお!!!」




残りはスタシア軍に一掃された。



しかしこれは武力鎮圧。



カール公国はスタシアに屈する事はない。



内乱はまだ収まらない。



しかしここは一度撤退してアルデンはカール公国への適切な対策を熟考する。



虎白もアルデンの城に立ち寄り今後の対策を共に考える。



ニキータは上機嫌でカール公国の民達の元へ行く。




「みんなありがとうねー! 仕事を専念したい方はこっちー! 兵士として頑張るぞーって方はこっちー!」

「皇女様! 本当に半獣族だけの軍団を? 白陸兵から嫌悪されませんか?」

「大丈夫大丈夫ー!! 軍隊の中でのいじめは厳しく罰せられるからねー白陸兵のみんな優しいよー!」




安堵した表情のカール国民。



とにかく上機嫌で尻尾をフリフリさせるニキータは国民達と食事を始める。



アルデンと虎白。



城の中にある赤いカーペットに覆われた部屋。



アルデンは客人をこの部屋でもてなす。




「またカール公国は挑んでくるでしょうが力は削げました。 まだ他にも危険な国家が多数あります。 フランス帝国に大英帝国。 そしてローマ帝国にロシア帝国。」

「帝国だらけだな。 どれも超大国で攻めるのが難しいな。」




アルデンは険しい表情で虎白とワインを飲む。



北側領土の地図を見つめる2人はじっと考える。




「俺も南側領土の平定にかかろうと思う。 アルデンの北側も落ち着くといいな。 何か他に困った事は?」




するとアルデンは申し訳なさそうに虎白を見てため息をつく。



首をかしげる虎白。




「実は。 何カ国かの捕虜が我が領内にいますがスタシアに従う気は毛頭なくて。 そして半獣族なのです。」

「引き取れって事か?」

「性格に難がありますが。 半獣族としての同族意識が強いのでニキータ殿の軍団に加えれば戦力になると思います。」




虎白はコクコクとうなずきアルデンの意見を了承する。



アルデンはほっとした表情でワインを飲む。




「悪くない。 捕虜は何人いる?」

「猿の半獣とスカンク、象、ゴリラ。 合わせて800です。」

「結構いるな。 わかった連れて帰るよ。 ただあまりにも数が多いな。 本部都市を通れないぞ。 衛兵に見つかると面倒だ。」




落ち着いた表情でアルデンは虎白を見る。



手のひらを虎白に向けて「待ってください」と合図する。



虎白は話すのを止めてアルデンの話を聞く。




「もちろんただ押し付けるわけではありません。 白陸領内まで我がスタシア軍が護衛します。 表向きは白陸との合同演習として先程、本部に許可を求める使いを送りました。」

「ヒヒッ。 相変わらず動きが早いな。」

「もし虎白殿に断られた場合は白陸領内まで兵士を行軍させる訓練をするつもりでした。」




アルデンの慎重かつ賢明な判断。



虎白はアルデンのそんな一面に惚れて盟友となった。



紳士的な態度で涼しい顔をしている美青年。



しかし肝が座っていて判断力に長ける。



スタシアの歴代でも最強の呼び声高いアルデン。




「わかった。 それなら本部を通過できるな。 捕虜にはスタシア軍の制服を着させればいい。 白陸に来るためなら文句は言うまい。」

「毎度毎度。 こちらの意見ばかり申し訳ない。 いつか必ず! 恩返しを。」

「おいおい。 俺とアルデンは盟友だ。 立場は対等だぞ。 お互い困った時は助け合おう。 俺の背後は任せる。」

「ええ。 私の背後もよろしくお願いします!」




そして2人は握手をする。



トントンッ!



ガチャ!




「お兄様。 本部の許可を得ましたよ。」

「ありがとう。 メアリー。 こちらが白陸の鞍馬虎白殿だ。」

「初めまして。 メアリー・フォン・ヒステリカと申します。 お見知りおきを。」




赤いドレスの裾を両手で軽く持ち上げてお辞儀する美女。



アルデンの様に鮮やかな赤い髪に赤い瞳。



顔立ちもアルデンに似ているが非常に女性らしく美しい。



スタシア王国の皇女にしてアルデンの実の妹。



虎白を見てニコリと微笑む。




「鞍馬だ。 アルデンに似てるな。」

「お兄様ほど美しく気高くはありませんが。 光栄なお言葉ありがとうございます。」

「メアリーが本部から許可もらった事だし帰るか。 アルデンまたな。 護衛は誰が?」

「このメアリーの騎士団が共に。 数は3000もいれば十分だ。」




虎白は驚きメアリーを見る。



そしてメアリーの腰に差す見事な剣を見つめる。




「まさかメアリー?」

「ええ。 私も剣聖ですよ。」




驚く虎白は笑みが溢れる。



そして軍を白陸に向けて進ませる。



虎白は城を見る。



アルデンが城の窓から虎白に拳を突き出す。



虎白も馬の上から拳をアルデンに向けて2人は別れた。













白陸。




「虎白様のお戻りだー!!!」




白王隊が虎白を迎える。




「おかえりなさいませ虎白様。 こちらは?」

「アルデンの妹のメアリーだ。」

「お初に!」




莉久が迎えるとぼーっとメアリーを見ている。




「どうした莉久!?」

「ふえっ!? あ、いやなんでもありません。 風呂の用意もできております! で、では!」

「何だあいつ。」

「虎白殿。 あなた様の兵は非常に精強ですね。 こんなに強そうな兵は今までに見た事がありません。」




虎白は嬉しそうに耳を動かす。



そしてメアリーは剣を抜いて顔の前で縦に構えると腰に戻してスタシアへ帰っていった。



アルデンから渡された捕虜達は半獣族の軍団の設立を聞くと泣くほど喜びニキータの配下に加わった。



ドルトの騎士団とカール公国の亡命者。



そしてスタシアの捕虜から構成された半獣族のみの兵士達。



その数3000。



小さいながら白陸に領地を持っているメルキータの元へ全員が向かう。



正式に軍隊として虎白に認められるには過酷な訓練をしなくてはならない。



これは始まりだ。



そしてここに虎白とニキータの珍道中も終わりを迎えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る