第14章 守りたい者
西に野営をしてからしばらくすると主の虎白が戻ってきた。
「虎白様だ!!!!」
『おおおおおおおおおー!!!!!!!!!!』
兵士の歓喜に包まれる。
虎白は何食わぬ顔で夜叉子達と話している。
西側領土は中衛まで冥府軍の手に落ちている。
領土奪還の進撃が間もなく始まる。
兵士達は隊列を組んでいる。
中央には竹子の第1軍と優子の第2軍。
その後方に甲斐の第3軍。
左に夜叉子の第4軍。
右にはリノとルークの第5、6軍。
本陣には虎白直轄の部隊を莉久が指揮している。
鵜乱の鳥人部隊も本陣で待機。
白陸軍の布陣は完成した。
そして西の奪還戦へと。
援軍で参陣した白陸とマケドニアだったが、もはや主力となっていた。
作戦の立案から実行まで全て虎白とアレクサンドロスが行った。
「自分達の土地は自分達で取り返せ。」
虎白の言葉に賛同したアレクサンドロス。
そして西の残存勢力が横一列に布陣して前進する。
その後方で白陸、マケドニア軍が付いていく。
これは最終局面まで南の戦力を温存するという意図があった。
背後から鞭を打たれる様に進むしかない西軍はひたすら前進して冥府軍をなんとか天上界の国境線まで追い返した。
しかし西軍は疲労困憊でこれ以上の進撃は不可能。
ここからが白陸軍の本番だった。
「ここからは俺達が行くぞ。 第1軍。 前に出ろ。 前進だ!」
虎白の下知で前に出る竹子の第1軍。
ボロボロの西軍を抜けていく。
負傷者の悲鳴が聞こえる。
衛生兵が走り回る。
指揮官は部隊を立て直す。
その中を進む白陸、マケドニア軍。
段々と迫る空気感。
遠くから感じる殺気。
心臓が握り潰されそうな圧迫感。
自分の血が冷たくなる感覚。
緊張。
今から殺し合いをする。
倒れる西軍兵士が他人事ではなくなっていく。
負傷者なら幸運か。
死ぬかもしれない。
初陣。
リトとユーリク。
南の攻防では出陣の機会がなかった。
初めて出る本当の戦場。
今日までたくさん訓練してきた。
でもやっぱり違う。
本当の戦場。
武器を持つ手が震える。
カタカタカタ・・・
「こ、怖い・・・」
リトは震える。
「大丈夫だ。 1人じゃない。」
「そうだね。 トーンは1人で敵に立ち向かったんだもんね・・・」
ユーリクはリトの背中をさする。
しかしそのユーリクも手の震えが止まらなかった。
「間もなく接敵するぞ!!! 腹くくれ!!!!」
虎白の声が響く。
それに続く側近の将軍達。
「どうしてあんなに平然としていられるの・・・」
「そうだな・・・怖くないのかな。」
凛々しくそして勇ましく戦場に向かっていく。
何も恐れていないかの様に。
「カッコいいなあ・・・」
「皆さん。 私達が最初ですよ。 気を引き締めてくださいね。 危険と思ったら下がってくださいね。」
リト達の指揮官の第1軍の竹子が馬上から振り返り兵士に声をかける。
薙刀を持っている白くて小さな手。
それが微かに震えている事にリトは気づく。
「竹子様も本当は怖いんだ・・・何回も出陣しているのにやっぱり怖いんだ・・・」
リトは震える自分の手を見つめる。
そして剣を一度腰に戻して両手を握る。
「大丈夫。 怖くない。 怖くない。」
必死に自分を奮い立たせる。
「どうしよう。 相手が私より強い兵士だったら・・・」
極度の緊張と恐怖で弱きな発想しか出てこなくなっていく。
リトは自分と戦っていた。
怖い。
死にたくない。
敵が強かったらどうしよ。
どうしよ。
寒いなあ。
行きたくない。
ちょっと待って。
私はなんで兵士になったの。
この日のためじゃなかったの。
戦場ってこんな怖いんだ。
まだ戦っていないのに。
落ち着かないと。
今日まで頑張ってきたんだから。
両軍が徐々に迫ってくる。
漆黒の旗。
不気味な怒号が迫ってくる。
「こちらから先に攻撃します。 射撃隊は準備してください。」
竹子が兵士に指示を出す。
コッキングレバーを引き、銃口を敵の隊列に向けて構える。
そして双方が対峙した。
「撃てー!!!」
透き通る美しい声が戦場の静寂を破る。
バババーン!!!
銃声と共に怒号が戦場を包む。
いよいよ開戦。
「かかれー!!!!」
第1軍の後方にある本陣から響く虎白の声。
『おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!』
何万もの兵士が同時に出す大声。
リトは鳥肌が立った。
これが戦場。
竹子は馬にまたがり向かっていく。
リトと同じ女性。
自分よりも小柄。
優しい表情で兵士の自分にも将軍という立場なのに笑顔で話してくれる。
いい指揮官に巡り会えた。
銃弾を薙刀で跳ね返して進んでいく。
やがて乱戦になると馬から降りて暴れまわる。
馬は二足歩行になり敵兵をバタバタとその大きな体で踏み潰しては殴っている。
互いの背後を守り合い懸命に戦っている。
リトは少しずつ勇気が湧いてきた。
「私だって。 ええええーいいいい!!!!!!!!」
バサバサッ!!
目の前の白陸兵が斬られて倒れる。
斬られた兵士はピクリとも動かない。
物凄い量の血を流している。
リトは目の前で倒れた彼らを知っていた。
決して親しくはなかったが同じ様に補充兵として白陸に来て共に訓練した同期だった。
「ええ・・・死んじゃったの・・・こんなにあっさり・・・」
同期を数人あっという間に殺してみせた冥府兵。
黒い装束に髑髏のお面。
2本の剣を持って不気味にリトを見ている。
冥府軍の精鋭部隊。
不死隊。
初めて対峙する不死隊の前にリトは恐怖で動けなくなる。
「・・・・・・」
恐怖のあまり声も出なかった。
しかし不死隊は無慈悲にリトへ迫ってくる。
「リトー!!!!!!」
カンッ!!
ボンッ!!
ユーリクが間一髪で不死隊の剣を止めたが直ぐに腹部を蹴られて吹き飛ばされる。
「ぐふっ!! こ、こいつらとんでもなく強いぞ!! 数人でかかる。 一対一じゃ絶対に勝てない・・・」
ユーリクは立ち上がりリトと数人の白陸兵で不死隊1人に構える。
しかし続々と集まってくる不死隊。
「へ、兵力もこっちが不利だ・・・」
カン!! ガッシャーーーン!!
だが次の瞬間には不死隊が吹き飛ぶ。
「第七感。」
超人的な動きの速さで次々に不死隊を斬っていく。
「大丈夫ですか? 敵が集中してしまいますので動きを止めないでください。」
竹子が現れてリト達は命拾いをする。
綺麗な竹子の顔には血が付いている。
何人の不死隊を斬ったのか。
直ぐに立ち去り他の仲間を救いに走っていく。
小柄な美しき将軍は戦場を動き回る。
不死隊が相手でも。
この世の終わりの様な大乱戦。
白陸軍が倒れ、不死隊も倒れる。
次々に双方で犠牲が増える。
リトは地獄の様な戦場で必死に生き延びようと努力する。
不死隊の1人がまたもリトに向かって迫ってくる。
「え、いやっ!! 誰か来て!!」
『うわあああ!!!!!』
ユーリクともう1人の味方がリトに加勢する。
それでも動じる事のない不死隊。
ユーリクが斬りかかる。
片手の剣で防ぎユーリクの腹部に蹴りを入れた。
「うわっ!!」
背中から倒れ込む。
「わあああああ!!!!!」
もう1人の白陸兵が斬りかかる。
カンッ!!
カンッ!!
バコンッ!!
2手打ち合ったが不死隊に顔を殴られて怯む。
そして。
グサッ!!
「グフッ・・・」
腹部を刺されて両膝をつく。
そして腹部から素早く剣を抜き取り頭に叩き込む。
ゴキッ!!
頭蓋骨が砕ける鈍い音と共に噴水の様に血が吹き出て倒れる。
「ああ・・・いやあああ!!!!」
リトは悲鳴混じりの雄叫びをあげて不死隊に挑む。
カンッ!!
バコンッ!!
1手で顔を殴られて怯む。
「ああ。 私も死んじゃう・・・」
カンッ!!
「おりゃあああああ!!!!!」
ユーリクが間一髪で間に合い不死隊の右鎖骨から斬り裂いた。
鎧が砕けて血を流す不死隊はまだ襲いかかって来る。
「リト!!」
「うん!!」
『うわあああ!!!!!』
2人同時に不死隊の腹部に剣を刺し込む。
髑髏の不気味なお面から血が流れ出る。
吐血した不死隊は遂にバタリと倒れて動かなくなる。
白陸兵3人でやっと1人。
リトとユーリクの周りでも次々に倒れる味方。
「このままじゃ・・・」
徐々に数が減る白陸軍。
「まだまだ来るぞ!!」
神通力が減り呼吸が荒くなる白陸軍に無慈悲に迫る不死隊。
「うわああああ!!!!!」
ユーリクは果敢に挑む。
カン!!カン!!
「死ねええ!!!!」
グサッ!!
「や、やった!!」
ユーリクはたった1人で不死隊を倒してみせた。
「どうだ!! みんなこのまま行くぞ!!!」
グサッ!!
「え・・・い、痛い・・・寒い・・・」
闘志に溢れたユーリクの顔が一気に青ざめる。
笑顔になったリトも硬直する。
「や、槍だ・・・」
ユーリクの腹部からは槍が突き抜けている。
両膝をついて動かなくなる。
「ちょっと嘘でしょ!! ねえ・・・嫌だ・・・トーンもユーリクもどうして私を置いていくの!!」
「ば、馬鹿・・・戦闘はまだ終わってねえぞ・・・必ず生き延びろよ・・・最期に言うぜ・・・す、好きだったよ・・・」
「知ってるよ・・・彼女になるから・・・ねえ・・・だから死なないで・・・お願いいいいいいいい!!!!」
しかしユーリクの瞳孔は開いている。
どこか安堵した表情で息絶えるユーリク。
そこへ投げた槍を抜きに不死隊が来る。
何食わぬ様子で槍を抜き取りリトに振り抜く。
ガコンッ!!
リトの頭部に当たり倒れ込む。
仲間の死を嘆く暇すら与えない。
無慈悲なまでに迫ってくる髑髏のお面の軍団。
この戦いは終わりを迎えるのか。
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