第30回 その美味さは表情筋を破壊する
隠れ里マグラスのギルドは世界樹ダンジョンをクリアした者が現れたと騒然としている。
いや、以前倒した65階層のヒュドラで楽勝だったんだから必然だったろ?
オズさんに至っては「そんなことできるわけが無い」と頭から否定していたので証拠の素材を出してやったら泡を吹いてしまったんだが。
「まさかクインヴェスパーの素材がこんなに・・・風切り羽根に毒針、ロイヤルゼリーに頭!魔石もこんなにか!」
通常のギルド職員では鑑定が出来ないらしく臨時で入ったジオが買取受付にいる。
「しかし一度倒しただけではこんなに手に入らぬじゃろ、しかも肉が無い・・・まさか?」
「ああ、ハーピーとかいう亜人種に会ったぞ。ソイツにこれも貰った。」
と、女王蜂の素材を片付け終わったカウンターに世界樹の実を、置けなかったので横のテーブルに出した。
「は、ハーピー族じゃと!?聖域にのみ住むというあの伝説上の種族にか!?・・・しかもそれは・・・世界樹の果実!!本物だと言うのか・・・。」
「アイツらが偽物を渡して来ない限りはな。」
「ハーピー族は女神から職務を言い渡された高潔な者しかいないと聞くが・・・ワシも見るのは幼い頃以来じゃからな・・・あの巨大な世界樹に対して実のサイズはこれ程度しかサイズは無いというのも聞いた話ではある。・・・しかし何にせよこんな貴重品は買い取れんぞ?」
「だから食おうかと思って持ってきたんだがジオも食うか?」
「なんと勿体ない事を・・・しかし食わずに腐らせるのも罰当たりじゃな・・・。」
凄まじい魔力を内包する世界樹の葉や果実は本来であれば魔力資源の尽きてしまった土地を回復させる為や大規模な儀式を執り行うために使われるらしいがこの里にはどちらの需要もないので食おうという結論なんだがな。
今のところ前者の需要に対応するのはハーピー達であって俺ではない。
オマケに世界樹の産物はとても足が早い=腐りやすいため一日しか持たないらしい。
「よし、食おう!リリィ、捌けるか?」
「はいご主人様、通常の果実と同じように切り分けて良いのでしたら出来るやもしれません。」
「お主と一緒で物怖じせん娘よな・・・。」
「まあハヤトと一緒にいたらそうなるよね(一番付き合い長いミサキ)。」
「だな(ここ数日で影響されまくったルリコ)。」
その後捌く所を一緒に見ていたが先ず両断するのをお任せしたいというリリィの願いに答えてゼロスラッシャーで斬ってみると特に種を切ったなどの感触はなくすんなりと真っ二つにできた。
ミサキ曰く中から何か出てくるという定番のイベントも無かった。種はあったが中心に柔らかいものが数個あるのみであとは果肉のようだ。
後は一口大にカットするだけなのでリリィに任せよう。
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「お待たせ致しました、世界樹の実の一口カットで御座います。」
熟れたマンゴーの果実のように柔らかいそれはひと房事にキラキラと輝いて見えた。真っ赤な実ではあったが中身は淡いミルク色をしており、光を反射して虹色にも見える。
「じゃ頂きます。」と口に運び、舌に触れた瞬間に凄まじい旨味に襲われる!
甘いだけではない、香りや歯ごたえも最高だ。
それは上等なゼリーを口にしたようにも、極上の酒を飲んだかのようにも感じ身体に凄まじい魔力が入ってくるが苦しさは一切無い。
それでいてクドさは一切なく、いくらでも食えそうだ!
「なんとこれは・・・美味いぞー!!!身体が端から端まで若返っていくようじゃ!!」
「おーいしー!!なにこれなにこれ!?」
「美味いぞー!!」
「これはなんとも・・・!こんなに美味しい食材があったなんて信じられません・・・。」
それに魔力が染み渡ってきたせいか身体が覚醒したかのような間隔まである。
今ならリカオンの野郎でも圧勝できる自信までが満ち満ちてくるな!!
「これはいかんのじゃ、ダメになるー毎日でも食いたいぞーー!」
既にジオを含めたうちのパーティはダメな顔になっているな・・・特にリリィなんて普段絶対に見せない満面の笑顔でパクパクと次から次へ世界樹の実を口に運んでいる。
しかし食べた者全ての表情筋を破壊してしまうとは恐ろしい、まだまだ料理というものの深淵は見測れないな・・・。
こうして俺たちの初めてのダンジョンアタックは少し物足りなさも感じつつ、みな無事に生還を遂げたのであった。
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