第4話

 不届き者でも見るかのようにオルフェオ様はリオン様を睨み付けた。


「違います。慌ててひとりで屋敷を飛び出してしまったので、宮廷魔導師様が付き添ってくださったんです」

「ほぉ。私から婚約破棄を言い渡されてショックだったのだな。しかし、騎士ではなくこんなひ弱な魔導師が付き添いだと? リーゼロッテなら騎士をつけるだろう。それなのに、この男をえらんだのか? 私に見せつける為に」


 さっき婚約を解消したのに。

 別の女性の事ばかり話すオルフェオ様に、ずっと我慢してきたのに。

 どうして自分が責められているのか理解できなかった。


 まるで浮気現場でも目撃されて問い詰められているようで、エミリアは困惑して次の言葉が出てこなかった。それを察してか、リオン様が一歩前へ出てオルフェオ様に丁寧に言葉を返した。


「宮廷魔導師見習いのリオンと申します。私がエミリア様の付き添いを申し出ました。エミリア様は何も悪くありません。……オルフェオ=コールマン様とお見受けいたしたしたが、エミリア様との婚約を解消したのですよね。元婚約者様が、まだ何かご用がおありですか?」

「な、何だと!?」

「リーゼロッテ様の大事なご友人であるエミリア様がお困りですので、失礼かと思いましたが、お尋ねしました」

「そ、そいつの妹と私は婚約する。義理の姉の交遊関係ぐらい口を出しても構わないだろう? エミリア。お前の両親は困っていたぞ。私に見捨てられて、お前のような娘に縁談など来ないだろうからな。こんなひ弱な魔導師等で張り合おうとせず、さっさと謝れば婚約破棄を取り消してやってもいい。家の為に何が一番良いか考えるんだな」


 オルフェオ様は一方的に言い殴ると馬車に乗り満足そうに帰っていった。

 嵐が過ぎ去り、私はその場に呆然と立ち尽くしてしまった。


「エミリア様──」


 急に名前を呼ばれたかと思うと、目の前でフワッと風が舞った。花の香りと、小箱の鏡に写った驚いた自分の顔、その横には、笑顔のリオン様がいた。


「お顔が固いですよ。あんな変な人は放っておきましょう。リーゼロッテ様にお伝えしますか? 少しは静かになるかと思いますが」

「いいえ。大丈夫です。ただ、家の様子が気になります」

「そうですね。早く帰りましょう」


 リオン様は私が邸に入るまで見守ってくれた。

 

 門が締まると、私は握りしめていた小箱を見つめた。開けてもいないのに、花の香りを思い出す。

 それから、リオン様の顔も。


 オルフェオ様が馬車から降りてきた時、リオン様が手を引いてくれた。自分より年下かな、と思っていたリオン様だけど、隣に並ぶと背は少し高いし、手は大きくて温かくて、不思議な気持ちになる。


 ふと、リーゼロッテの言葉が頭をよぎる。


「恋なんてしてみたらどうかしら?」



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