第21話 告白お姉さん
朝日が登ってきた。
タラオはまだ帰って来ない。シャルロットと都市の外壁の所でひたすらタラオの帰りを待っていた。
でも、もう行かないと……
私は町長に絶対中立都市への退避を提案した。
「昼までに帰らなかったらと言ってました」
「そうかい……心配ないさ。アイツなら必ずやり遂げるよ」
そう言って町長は全く動く気配が無い。
「荷物をまとめて準備した方がいいのでは?」
「ヤツはゴブリンキングの首を必ず取るよ。あの黒装束はアサシンだろ?」
「はい。ジョブチェンジしてアサシンになっていました……それが何か?」
「アンタ知らないのかい? アサシンは上位職だから2つの固有スキルがあるのさ。1つは『隠密』、もう1つは……」
町長はそこまで言って言い淀んだ。ひどく嫌な予感しか私はしない。
「……もう1つは?」
「自爆だよ……ヤツは差し違えてでも首を取るね」
アサシンの固有スキル『自爆』は自分の命と引き換えに相手へ極大ダメージを与えるスキル。
「そんなスキルが有るなんて一言も教えてくれなかった」
でも、タラオは逃げるようにと言った。生きて帰ると信じているけどタラオの言葉を無にする訳にはいかない。私は必死に町長を説得した。
「分かったよ。皆に避難準備指示を出そう」
「有難う御座います」
商業ギルドへ行くとスタッフ達が難民の受け入れ準備をしていた。迷宮都市に向かっている難民はどうすればいんだろう……ここが壊滅すれば絶対中立都市しか残らないだろうとタラオは言っていた。
そうなった場合に限り、絶対中立都市(システム側)は人々の保護に乗り出すそうだ。難民もそっちに行くしかないよね。
ギルドのスタッフに避難準備をする様に伝えた。みんな慌てて自宅へと帰って行った。治療ギルドに行って同じく避難準備指示をした。幸いなのは重傷者の治療が終わっていた事だ。
私も大事な物をスキル『収納』で手早く片付けたけどもうお昼近くなっていた。
家に帰って自宅も片付けないと……
自宅に戻ると玄関に人が倒れていた。
タラオだ……どうも寝ているみたいね……
もう……馬鹿なんだから……
涙が溢れて止まらなくなった。
ちょっと落ち着いてからタラオを起こす。
「タラオ! こんな所で寝てたら風邪引くよ!」
「ん? ああ……もう限界だ……頭が働かん」
体は何ともなっていないみたいだけど精神的な疲れがピークに達したのね。精神的な疲れには回復魔法も効かない。
「腹が減った……」
そう言ってタラオは食卓に向かった。
「頼むぞ……豚まん出てくれ……俺は今、豚まんの事しか考えられん」
ヨロヨロと椅子に腰掛けたタラオは天に祈りを捧げているようだ。
「『パンイチ』LV5!!」
タラオは最後の力を振り絞りそう叫んだ。
すると……少し黄色っぽい中華パンがポトっとテーブルの上に現れた。当たりのようだ。
「おお……これぞ正しく豚まん。神は俺を見捨てなかった! これにポン酢とカラシがあれば最高なんだがな」
タラオはムシャムシャと豚まんを貪り食べているけど、私はテーブルの上に豚まんと一緒に現れた小さな箱を見ている。
0.02mmと大きな文字で書かれたその小箱はどう見ても避妊具だ。念のため鑑定してみたら男性用避妊具で精力アップの効果まで付与されていた。
「肉まんは私も好きだけどポン酢やカラシなんか付けないよ」
「あのな……豚まんと肉まんは違うんだよ。これだから最近の若いもんは……」
タラオは豚まんを熱く語っている。小箱の事は完全に無視している。
「でタラオさん? その箱は何かな?」
「箱? あ……これはその……勝手に出るんだよ」
「そういう事がしたいんじゃなくて?」
「したく無いと言えば嘘になるな……」
「……いいよ」
「へ? なんて?」
「だから……してもいいよ。私達、夫婦でしょ?」
私はタラオが好き。もうこの気持ちを抑える事が出来ない。いつ死んでしまうか分からない世界に私達はいる。我慢していたら何も伝えられないまま死んでしまうかもしれない。
「でもその前にタラオが戻ったって町長に言ってくるね」
「町長ならもう報告してある……」
そう言ってタラオは私を抱き寄せた。
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