第19話 信じるお姉さん

 まるで英雄みたいな活躍ね。

 

 タラオが先頭に立ち、ゴブリンの群勢を圧倒した。指示も的確だし、何よりもタラオ自身が強い。

 私達3人の連携にゴブリン達は全く対応出来ていなかった。


 程なくスタンピードは消滅した。


 しかし、多数の怪我人が出た。命を落とした人も少なからずいた。私は治療ギルドで怪我人の治療をした。タラオはスタンピードへの対応が遅れた事を悔やんでいる様子で落ち込んでいる。


「ダンジョンの事ばかり考え、外の敵への警戒を怠ってしまった」


「でも、それはタラオの仕事ではないわ」


「いや……俺は知っていたんだ。こういうイベントが突発的に起こるって事を……ただ、時期はもう少し後だと思っていた。甘かったな……」

 

 タラオ……


 タラオが期待して育てていた冒険者が死んだそうだ。私の知っている兵士も大怪我をした。


「責任感のあるヤツは早死にするな……」


 その人がモブだったのか、プレイヤーだったのかはタラオにも分からないそうだ。


 あまりにもリアル過ぎてモブとプレイヤーを見分けるのは困難だ。全ての人の体には私達と同じ血が流れ、魂が宿っている様にしか思えない。


「都市周辺の探索クエストを出そう。俺はダンジョンへ行く。レベル上げだ」


 タラオは立ち止まらなかった。すぐに次の事を考え動き出した。


 私には何が出来るだろうか……


 ……何も思いつかない……タラオだけが頼りだ。


 

 タラオはシャルロットに何かを告げてダンジョンへと向かった。シャルロットも何処かへ行ってしまった。私はポツンと取り残された。


「アリスさん! 町長がお呼びです!」


 元道具屋のおばさんの町長に呼ばれて話をした。絶対中立都市(システム側)から物資が届けられたそうだ。大量のワインらしい……


 クエストのクリア報酬ね……私は顔をしかめた。


「犠牲者が出たんだ。気持ちは分かるけど頑張った者に報いるのも務めだよ」


 町長にそう諭された。

 商業ギルドの前で食事と共にワインをみんなに振る舞った。みんな喜んでいるけど私の気は晴れない。タラオがここに居たとしてもワインに口をつける事は無いだろう。


 町長が私の隣に来た。


「アンタの旦那が居なければ全滅していたかもしれないよ。主役の姿が見当たらないね?」


「タラオならダンジョンへ向かいました」


「ダンジョン? アイツは意味も無くそんな事をする人間じゃない……まだ何か来るって事かい? まさかそんな事……」


 これ以上何かあったらもう無理だ。外壁も人もボロボロだ。


 まさしく絶望……


 これ以上は無理……


「アンタには伝えておくが絶対中立都市から大量の物資が届くそうだ。恐らく周辺都市から難民がここに押し寄せるね」


「難民が?」


「ああそうさ。スタンピードの防衛に失敗した都市からの難民さ」


 難民が来るなら大量の食事が必要だ。すぐに段取りをして迎える準備をしないと暴動が起きかねない。テントなんかも必要だ。


「今すぐ動かないと!」


「こっちは外壁の修繕を急いで防衛態勢を整えるのに全力を尽くすから難民は商業ギルドに任せるよ」


 まだ何か来る前提で動くしかない。タラオはその事を見越して動いているはず。その証拠に冒険者ギルドから発令された第1級警戒警報は出されたままだ。


 タラオが私に何も言わなかったのは私を信頼しているからだ。


 そう信じたい……


 商業ギルドで難民対策を指示した。それから治療ギルドで治療を頑張る。1人でも多くの人を前線へと復帰させないといけない。


 私にしか出来ない事! それが目の前にある!


 今までの経験を全て注ぎ込む!


『ホーリーランサーへ転職可能になりました』


 夢中になって治療していたら頭の中に言葉が浮かんだ。でも今はそれどころじゃない。


「スタンピード発生方向にゴブリン城を発見! 大規模スタンピードの予兆有り!!」


 迷宮都市に衝撃の伝令が伝わった。傷だらけの人も立ち上がって防衛に向かおうしている。


「まだ動かないで! しっかりと治療受けるのよ! 何が最善か冷静に考えて動きなさい!!」


 私が厳しくそう言うと動きかけた人達が動きを止めた。私は私に出来る最善の一手でこの事態を乗り切ってみせる!


 真夜中になっても防衛態勢は整っていない。夜通しの復旧作業になりそうだ。そんな中あの人が現れた。


「アリス……すまないが回復してくれ……」


 そう言ってタラオは私の前で力尽き倒れてしまった。その姿はボロ雑巾みたいだ。

 私は回復魔法を何度も唱えてタラオを回復した。


「ありがとう……工房にシャルロットが居るはずだ。呼んでくれ……


 タラオはその場で眠ってしまった。工房に行くと片隅でシャルロットが作業をしていた。


「シャルロット、タラオが帰って来たわ」


「分かりました。すぐに行きます!」


 シャルロットは言葉通りすぐにタラオの元へとやって来た。


「タラオさん、最善尽くしました。今出来る最高の短剣2本と服です」


「シャルロット、ありがとう。すまないが『浄化』を頼む」


 シャルロットがボロボロのタラオを浄化した。そしてタラオはシャルロットが用意した服に着替え、腰に短剣を2本装備した。その姿はまるで忍者のようだ。


「アサシンのLVを上げて来た。ゴブリン城は見つかったか?」


 やっぱりタラオはゴブリン城の事を予見していたんだ!


「スタンピードの来た方角にあるそうよ」


「やはりブチ切れコンボだったな……ゴブリン城は時間制限付きのクエストだ。ノーマルモードは7日、ハードモードは3日だった」


 じゃあエクストラハードモードは1日か2日?


 システム側がブチ切れたように襲い掛かってくる通称『ブチ切れコンボ』が今起こっている現象らしい。タラオは過去にも何度か経験しているそうだ。


「制限時間内にクエストを達成しないとさっきの10倍の敵が襲ってくる」


「無茶苦茶よ……2倍でも耐えれない……」

 

 2倍どころか半分でも怪しい状況だわ。


「だから俺はダンジョンに行った。ゴブリン城クエストの達成条件はただ1つ。それは城主のゴブリンキングの首を取る事だ」


 まさか……


「今から単身でゴブリン城へ潜入してゴブリンキングの暗殺を試みる」


「1人でなんて無茶よ!!」


「これしか方法ないんだ……俺が昼までに戻らない時はここを脱出して絶対中立都市に向かってくれ。アリス、シャルロット、みんなを頼んだぞ」


 タラオは有無を言わさず歩き出した。


「タラオ!」


「変なフラグは立てるなよ? 俺を信じろ」


「分かった……頑張ってね!!」


 明るく見送るだけ。


 私にはそれしか出来なかった。


 








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