「ドイツですか。行ってみたい国のひとつです。ボビンレースもクンストレースも大好きです」

「なら、話は早い」

　桐哉さんは名刺をしまうと、英文の書類をつまみ出した。そして、私にその内容を説明してくれた。

「サラの推薦状です。結さん、あなたを英国かドイツへ留学させたい。本場でレースを学びませんか」

　私は耳を疑った。突然、長年のレースへの手触りのいい愛情が、編みあがったドイリーとなって目の前に美しく現れたのだ。

「桐哉さん、何を言っているの……？私なんかが、そんなことできるわけがないです」

「僕はあなたからもらったレースのアスコットタイを、仕事で来日したサラに見せました。あのバー『Knitted Celebrity』で。すると彼女は『Amazing(素晴らしい)！』と声を上げました。僕はサラに請われるままに、あなたのクロシェ作品を見せました。彼女は本当に感激していた。そして、すぐにこの推薦状を書いてくれたのです。手芸学校へ留学する際に役立つだろうと言ってくれました。もしもそこで優秀な成績を収めたなら、自分の勤めるオートクチュール店に招きたいとも言ってくれました。すべては結さん次第です。どうしますか？」