第30話 茉祐の恋バナ(2)
「『盛り胸』は?」
「……失敗したの。デートの時に、ラッシュに引っかかって、人ごみの中でもまれながらなんとか出口までかき分けていって、それからまっすぐ待ち合わせの改札前に直行したんだけど、彼に変な顔されて、笑われて……。で、私も違和感を感じて背中をちょっとさわったら、パットが移動しちゃって後ろに流れて背中が盛られてた……」
……茉祐は、私を笑い殺すつもりだろうか。さっきから私は必死に痙攣するおなかを撫でさすっている。笑ってはいけない。どこかのバラエティ番組のようだ。
「それで、彼がね、『茉祐ちゃん、大丈夫だよ。スクール水着が似合いそうでいいじゃん、ほんと!』って。スクール水着って言ったのよ!?ぜんぜんフォローになってない!しかも顔は吹き出すのを我慢してるのがバレバレ。『笑うならちゃんと笑いなよ』ってやけくそで言ったらさ、ほんとにゲラゲラ笑うんだもん。普通慰めるでしょ?信じられない!『茉祐ちゃん、大丈夫。俺、貧乳好きだから』って。もうこれで百年の恋も醒めたわ」
いや、出会ってすぐデートしてるんだから、百年も恋しているような時間はなかったはず……と突っ込もうとしたけれど、茉祐がちょっと青くなって本気で怒っているのを見た私は、慰めにかかった。彼女は「貧乳」という言葉に異常に反応するほど気にしているのを知っているからだ。
「まあ、そんな失礼な男のこと忘れてパーッと飲もうよ」
「そうね。あいつロリコンで幼女好きだったかもしれないし。いやきっとそうよ。いつか逮捕されたらいいのに」
渾身の呪いの言葉を吐き、茉祐はぐっとサングリアを飲み干すと、次に運ばれてきたタパスに手を出してやけ食いし始めた。
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