第13話 心の中の魔女
「それでは」
桐哉さんは深々と腰かけると、テーブルの上に置いてあった眼鏡を手にしてかけた。
「眼鏡、かけるんですか?」
「ええ」
桐哉さんは、それがごく当たり前だというようにうなずき、編み針がきちんと収められたケースを探る。
「普段はコンタクトですが、編むときだけ眼鏡をかけるんですよ。気合が入る、といえばいいかな。会社モードからの切り替えにはうってつけなんです。どうですか?」
桐哉さんはかぎ針を手にして、眼鏡の奥から切れ長の深いブラウンの混じる秋色の目を細める。少し先の細くなった黒くてふわっとした髪、ふちのない眼鏡がよく似合っていて、なんだがアーティストと向き合っているようだ。
「とてもお似合いです。アーティストのよう」
「それはうれしいな。僕のこの姿を見たことがあるのは結さんだけですから、特別ですよ」
普段の副社長としての桐哉さんも素敵だけど、ニッターとしての桐哉さんも、新鮮でかっこいい。それに、私だけしか知らない桐哉さん……なんだか恋人みたい、とふと思った私は、思わず息を止めてしまった。
そんな、考えすぎだ。私は単なる講師、レッスンをするだけなのだから。
……そうは理性で言ってみても、心はもしかしたら、もしかしたらと期待する上ずった声を上げる。私は妄想のおいたが過ぎる心の中に住む魔女を封印すべく、少しだけ大きな声で言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます